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2024.03.02

【展覧会レポート】マティス・自由なフォルム(国立新美術館で開催中)

六本木の国立新美術館で開催中の「マティス 自由なフォルム」展。
さっそく足を運んできたので、今回はそのレポートと感想をお伝えしたいと思います。

今回の展覧会の顔、マティス作『花と果実』

最初に

当初2021年開催予定の展覧会でしたが、コロナで延期されていた「マティス 自由なフォルム」展。

ニース市のマティス美術館の協力により、展示作品がほぼ100%マティス本人の作品で構成される贅沢な展覧会です。
今回の目玉は、マティス晩年の傑作です。切り絵やロザリオ礼拝堂のステンドグラスなど、絵画の枠を超えた作品群が一挙に勢揃いしました。
その他にも絵画、彫刻、素描、版画、テキスタイルなど、合計161点の作品を鑑賞することができます。

昨年も上野の東京都美術館で『マティス展』が開催していましたが、まったくの別物です。
アプローチが違うので、ぜひ足を運んでほしい展覧会となっています。

※東京都美術館『マティス展 Henri Matisse: The Path to Color』
(2023年4月27日(木)~8月20日(日) 開催期間終了)

アンリ・マティス『ザクロのある静物』 1947年 ニース市マティス美術館 © Succession H. Matisse

 

会場の雰囲気

そうは言っても20世紀を代表する画家マティスですから、当然ながら第一週目にしてなかなかの盛況ぶり。土日はやはり人混みを覚悟して行った方が良さそうです。

展示の後半は写真撮影OKになっていますが、作品をじっくり撮りたい人は平日早めの時間に行くことをおすすめします。

会場後半の展示。写真OKなので『花と果実』や『ブルーヌード』の前は人だかりが絶えない。

展示について

マティスの画業について、作品の移り変わりとともに順を追って説明してくれます。多岐にわたるマティス美術館のコレクションのおかげで、目まぐるしく変わるマティスの画風や興味の対象がピンポイントで押さえられていて、予備知識のない人にもマティスの魅力がわかりやすいのではないでしょうか。

とくに切り絵に取り組み始めた晩年の展示は、新しいマティス像を見せてくれます。驚かされるのは作品サイズのバリエーションです。『ジャズ』シリーズのような出版物サイズのものから、『花と果実』、『ロザリオ礼拝堂』のステンドグラスなどのような大作まで実に幅広く、彼の色彩とフォルムの中に来場者たちが包まれているようにすら感じられます。

ロサリオ礼拝堂の内部を再現した展示室。ステンドグラスに定期的に光が入り、神々しい。

マティスと切り絵

一般にマティスの切り絵に対する紹介は、彼が1941年に患った十二指腸がんの影響で体力を失い、絵や彫刻よりも体力を要しない画法を求めたことばかりが取り上げられがちです。しかし切り絵という制作方法には、絵画や彫刻にはない様々な利点があります。まず色紙を直接切り抜くことは、色彩表現とデッサンを一度に行うことを可能としました。さらに切り絵の作品は縮尺の応用が効くため、キャンバスを選ばず様々な場所に作品を流用できるようになります。それが今回の展覧会の顔『花と果実』のような大作を生み出す重要な手助けとなったのです。

つまりマティスは単に切り絵で創作方法をマイナーチェンジしたわけではなく、むしろさらに自由でスケールの大きな活動を可能にしたのです。本展はその重要さを感性によって理解させる素晴らしい試みと言えるでしょう。

 

気になった作品

ここからは、「マティス 自由なフォルム」展で個人的に印象に残った作品をご紹介します。

アンリ・マティス《本のある静物》1890年 油彩/カンヴァス、21.5 × 27 cm、ニース市マティス美術館蔵 © Succession H. Matisse Photo: François Fernandez

マティスが絵を描き始めて2年目、まだパリに出る前の作品です。彼らしい豊かな色彩はありませんが、斜めのラインを活かした構図と真っ黒な背景が、本など対象物の存在感を高め、額から飛び出すような迫力があります。画力が足りずにパリのアカデミーを不合格になったマティスですが、すでに才能の片鱗があったとわかってもらえるのではないでしょうか。

 

アンリ・マティス《赤い箱のあるオダリスク》1927年 油彩/カンヴァス、ニース市マティス美術館蔵 © Succession H. Matisse Photo: François Fernandez

オダリスクはマティスが好んだモチーフの一つです。横たわる女性モデルに背景や下敷きなどのエキゾチックでカラフルなデザインの組み合わせは、いかにもマティスらしいと言えるでしょう。これらの材料を構図と線描の巧みさで立体的かつ深みのある絵に仕上げる技術には、ただただ見入ってしまいます。

 

アンリ・マティス《ロカイユ様式の肘掛け椅子》1946年油彩/カンヴァス、92 × 73 cm、ニース市マティス美術館蔵© Succession H. Matisse Photo: François Fernandez

すでに切り絵を始めていた時代の貴重な油彩画です。椅子の形を単純化し、肘掛け部分の踊るようなフォルムを活かし、躍動感ある作品になっています。

モデルとなったヴェネチアの肘掛け椅子はお気に入りだったようで、何度もモチーフとして活用されています。シンプルで原色寄りの配色と動きのある造形は切り絵の影響では?と想像を掻き立ててくれるでしょう。

 

アンリ・マティス《顔》1951年 © Succession H. Matisse Photo: François Fernandez

即興で描いたかのような、ものすごくシンプルな作品。にもかかわらず、マティスの作品だと一目でわかる凄さ。ほんのちょっとした線だけでも誰が描いたかわかるというのは、まさに巨匠の成せる技と言いますか。

忘れちゃいけないのは、本作がモノクロームという点。色彩の魔術師と呼ばれるマティスですが、フォルムこそが真骨頂と言わんばかりの作品です。

展覧会を振り返って

駆け足ですが展覧会の紹介を感想含めてご紹介させていただきましたが、いかがでしょうか?

個人的に印象深かったのは、まず「マティスって引き出しの多い画家だなぁ」ということ。同じく20世紀の巨匠として挙げられるピカソも陶芸や彫刻、服飾デザインもやっているんですが、やはり比率で考えると油彩画のイメージが圧倒的に強い。マティスも油彩画が中心なのは間違いないですが、切り絵や彫刻など他ジャンルの掘り下げ方に異次元の深みがあるように感じます。

ロザリオ礼拝堂のカズラ(上級聖職者の服)の展示室。マティスは礼拝堂の設計・装飾で衣服のデザインにまで積極的に取り組んだ。

それと展覧会名にもあるとおり、マティスが作るフォルムの素晴らしさですね。デッサンの能力が卓越しているので、ちょっとしたスケッチでも十分に魅力的なんです。子どもの絵のようでいて、まったく破綻が無い。消し残しの鉛筆線にもちゃんと意味があるのです。デッサンの技術と経験値があるからこそ、下絵無しの切り絵ですぐに作品づくりができてしまうのでしょうね。

アンリ・マティス《ブルー・ヌード IV》1952年 切り紙絵、103 × 74 cm、オルセー美術館蔵(ニース市マティス美術館寄託) © Succession H. Matisse Photo: François Fernandez

もしご興味を持っていただけたら、ぜひ足を運んでみてください。

インフォメーション 

マティス 自由なフォルム

会期:2024214日〜527

会場:国立新美術館

住所:東京都港区六本木7-22-2

電話番号:050-5541-8600

開館時間:10:0018:00(金土〜20:00入場は閉館の30分前まで

休館日:火(ただし、430日は開館)

料金:一般 2200 / 大学生 1400 / 高校生 1000 / 中学生以下無料