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2023.05.17

自画像を描いた45人の芸術家たち

今回は自画像を描いた45人の芸術家をご紹介して参ります。

自画像は芸術家たちにとって普遍的な主題として描かれてきました。自画像は芸術家が自分自身を表現するための一つの手段であり、その在り方は時代によって大きく異なります。
中世やルネサンス期、バロック期で、自画像は主に芸術家が自分自身を紹介する手段や芸術家の技術、才能を示す手段でした。19世紀になるとカメラが出現し、自画像は自己探求の対象となり、個人的な表現手段として用いられるようになりました。そして20世紀には、個人的な表現手段だけに留まらず、社会性が色濃く現れる自画像が美術史上に現れるようになりました。

本記事では各芸術家の簡単な紹介と共に彼らが描いた自画像を年代別にご紹介して参ります。美術史で起きた様式の変化を知ると共に「こんな人だったんだ」と知るためのきっかけとなれば幸いです。
それでは解説を始めて参ります。

レオナル・ド・ダヴィンチ

生没/1452年 – 1519年

美術史上最も優れた芸術家。イタリア・ルネサンス期の三大芸術家の一人。「万物の天才」と言われ、絵画だけでなく、音楽、建築、設計、工学、解剖学、地質学、天文学とさまざまな学問に多大な影響を及ぼした。絵画上で光とその風景や物体への影響を、これまでにないほど劇的な効果をもって描くことができることを示した。代表作は「モナ・リザ」、「最後の晩餐」などがある。

self-portrait 1505
self-portrait(sketch) 1512

アルブレヒト・デューラー

生没/1471年 – 1528年

ルネサンスを代表する芸術家、理論家。後期ゴシックとルネサンスとを融和に導いたドイツ絵画の父であると同時に、美術史上最も重要な画家の一人。代表作は「四人の使徒」、「羊飼いの礼拝」、「アダムとイブ」など。

「28歳の自画像」1500

ラファエロ・サンティ

生没/1483年 – 1520年

イタリア・ルネサンス期の三大芸術家の一人。レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロに影響を受け、写実的な明暗法、肉付法を基礎としつつ,理想美を追求して古典主義芸術を完成させた。ルネサンスの絵画理念を最も純粋に表現した芸術家として後世に大きな影響を及ぼした。代表作は「アテネの学堂」、「聖母子と聖ヨハネ」、「ヴァチカンのスタンゼの壁画」、「サン・セバスティアーノの殉教」など。

self-portrait 1506

ピーター・ポール・ルーベンス

生没/1577年 – 1640年

17世紀フランドル出身の画家で、バロック期を代表する芸術家の一人。肖像画、宗教画、神話画、歴史画、風俗画などのいずれも評価が高く、鮮やかな色彩感覚や人間の力強い表現、躍動感あふれる構図、官能的な表現などが特徴。代表作には、「マリー・ド・メディシスの肖像」、「聖母被昇天」、「三賢者の礼拝」、「ライオンの穴の中のダニエル(預言者ダニエル)」などがあります。

self-portrait 1603

レンブラント・ファン・レイン

生没/1606年 – 1669年

17世紀のオランダ出身の画家で、バロック期を代表する芸術家の一人。
肖像画、風俗画、宗教画などのジャンルで活躍し、光と影の効果を使った強い造形感覚、独自の筆致や質感、精緻な描写力などが特徴。代表作は「夜警」、「キリストの受難」など

self-portrait 1643

ヨハネス・フェルメール

生没/1632年 – 1675年

17世紀のオランダ出身の画家で、バロック期を代表する芸術家の一人。柔らかな光の表現、現実的な描写、色彩感覚の優れた表現などが特徴。制作した作品数が少なく、生前にはあまり知られていなかったが、19世紀になり再評価された。代表作は「真珠の耳飾りの少女」、「レースを編む女」などがある。
以下の画像はフェルメール作「取り持ち女」1656年の一部。その左端に描かれている人物がフェルメールの自画像だともいわれているが、確証はない。

「取りもち女」に描かれた一部1656
取り持ち女 1656

フランシスコ・デ・ゴヤ

生没/1746年 – 1828年

18世紀末から19世紀初頭にかけて活躍したスペインの画家。「近代美術の父」と評されており、濃い色彩や強い描写力、社会的・政治的批判性が特徴の作品は、ロマン主義や印象派に多大な影響を与えた。代表作には「マドリード、1808年5月3日」、「着衣のマハ」、「裸のマハ」などがある。

self-portrait 1815

ウィリアム・ターナー

生没/1775年 – 1851年

19世紀初頭のイギリスの画家で、ロマン主義の代表的な画家の一人。自然界の力強さや壮大さ、風景の美しさを表現した作品を得意とし、非常に詩的な印象を与える。色彩や光の表現、独特な構図や視点、自然の力強さや荒々しさを表現する技法はのちの印象派や表現主義に影響を与えた。代表作は「解体されるために最後の停泊地に曳かれてゆく戦艦テメレール号」、「雨、蒸気、スピード-グレート・ウェスタン鉄道」など。

self-portrait 1799

ドミニク・アングル

生没/1780年 – 1867年

「新古典主義」の巨匠として知られるドミニク・アングル。19世紀に活躍したフランスの画家で美しい女性像や歴史的・神話的なシーンを多く描いた。緻密な構成、線による明確な形体、理想化された形式美は後世のフランス芸術界に多大な影響を及ぼした。代表作には、「ラ・グランド・オダリスク」や「トルコ風呂」などがある。

self-portrait 1804

ウジェーヌ・ドラクロワ

生没/1798年 – 1863年

19世紀フランスのロマン主義の画家。濃い色彩や強い筆致、感情表現の強さなどが特徴的で、劇的な場面を描いた作品が多く、その表現力は今なお驚異的と評価されている。代表作には、「民衆を導く自由の女神」、「サルダナパールの死」、「聖セバスティアン」など。

self-portrait 1837

ジャン・フランソワ・ミレー

生没/1814年 – 1875年

19世紀フランスの画家で、農民や労働者の生活を描いた作品で知られている。写実的な描写とともに、静謐で感傷的な雰囲気を醸し出しており、非常に独特の世界観を持っている。ミレーの農村の風景や季節の変化なども描いた作品には、当時の社会問題が現れており、農民の生活や労働環境の改善を訴えるメッセージも込められてた。代表作には、「晩鐘」、「落ち穂拾い」、「種をまく人」などがある。

self-portrait 1841

ギュスターヴ・クールべ

生没/1819年 – 1877年

19世紀フランス絵画において、写実主義(レアリスム)運動を率いた芸術家。 自身がが実際に現実で見たものだけを描き、宗教的な伝統的な主題や前時代のロマン主義的幻想絵画を否定した。美術史上初めて写真を絵画の制作過程に取り入れた画家でもあり、写真の影響を受けたリアルな描写を追求した。代表作は「浴女たち」、「石割人夫」、「世界の起源」などがある。数多くの自画像を描いたことでも知られる。

「絶望(自画像)」1843-1845

ギュスターヴ・モロー

生没/1823年 – 1885年

19世紀後半のフランスの画家で、象徴主義の画家。魅惑的で幻想的な世界観が特徴。細部にわたって美しいデザインや模様を描き、鮮やかで誇張された色彩を使うことで、非現実的で幻想的な雰囲気を作り出すことに非常に長けていた。代表作に「夜」、「オイディプスとスフィンクス」、「出現」などがある。

self-portrait 1850

ダンテ・ガブリエル・ロセッティ

生没/1828年-1882年

19世紀イギリスの画家でラファエロ前派の中心的人物の一人。神話や詩の世界を美しく細密な描写や明るく鮮やかな色使いを駆使して描いた。女性像を描くことに長けており、髪の毛や衣服の細部まで描き込まれたリアルな表現が特徴の一つ。代表作には、『ベアタ・ベアトリクス』『プロセルピナ』などがある。

self-portrait 1847

ジョン・エヴァレット・ミレー

生没/1829年 – 1896年

19世紀イギリスの画家で、ラファエロ前派の中心的な人物。写実的で正確な描写と鮮やかな色使いそして緻密な筆使いが特徴。特に自然の風景を緻密に描写し、花や草木のディテールにこだわることでも知られている。ミレーは美術学校の創設にも関わり、後進の指導にも積極的に携わった人物としても知られている。代表作には、『オフィーリア』、『クリスマス・イヴ』、などがある。

 

self-portrait 1881

エドガー・ドガ

生没/1834年 – 1917年

19世紀フランスの印象派の画家・彫刻家で、印象派の中でも独自のスタイルを確立した人物として知られる。日常生活の中にある人々の動きや瞬間を捉え、描写した作品が特徴。特にバレエやオペラなどの舞台芸術をテーマにした作品が多く、その中でも踊り子たちの動きや表情を独特の角度から捉えたものを多く描いた。印象派のメンバーの中でも特に意欲的に独自のスタイルを追求し、多くの芸術家に影響を与えた重要な存在とされています。代表作には、『バレエのレッスン』『舞台の踊り子』『浴槽の女』などがあります。

self-portrait 1854

ポール・セザンヌ

生没/1839年 – 1906年

ゴーギャンゴッホとならぶ後期印象派を代表する人物の一人。彼の作風はピカソやキュビスムに多大な影響を及ぼし、活動後期には印象派を超えて自然の中の幾何学を探究した。前衛芸術の起源ともなる作品を数多く生み出した。代表作は「サント=ヴィクトワール山」、「りんごとオレンジ」など。

self-portrait 1880
self-portrait 1882

クロード・モネ

生没/1840年 – 1926年

19世紀から20世紀にかけて活躍した最も有名なフランスの画家の一人。印象派の中でも代表的な芸術家として広く知られている。明るく鮮やかな色使いと、自然光の表現にこだわった描写が特徴。モネは同じモチーフを季節や時間帯によって描き分け、光や色彩の変化を描写し続けたため、同じ主題の作品を数多く残している。代表作は「睡蓮」、「日傘を持った女」、「印象、日の出」など。

ベレー帽の自画像 1886

ピエール=オーギュスト・ルノワール

生没/1841年 – 1919年

19世紀から20世紀にかけて活躍した画家で、印象派およびフランスを代表する芸術家として知られる人物。印象派の中でも特に明るく華やかなスタイルが特徴。鮮やかな色使いと柔らかなタッチで、女性や子供たちをテーマにした作品が多く描いた。晩年は新古典主義への回帰した後、様式の枠を超えて喜びの表現に没頭した。代表作は「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」「船遊びをする人たちの昼食」などがある。

self-portrait  1875

アンリ・ルソー

生没/1844年 – 1910年

19世紀末から20世紀初頭に活動をしたフランスの画家。シュルレアリスムの先駆的な人物とみなされている。ファンタジックな世界観や、独特な構図、色彩感覚が特徴。ルソーは自身が描いた架空の風景や生き物たちを描き、実際に存在しないものを表現することで、独特な世界を作り出した。生前には評価されなかったが、晩年からパブロ・ピカソら一部の芸術家から評価されるようになり、没後シュルレアリストなどに影響をもたらすなど、世界中で愛される存在となった。代表作には「夢」「眠るジプシー女」などがある。

風景の中の自画像 1890
self-portrait 1900

ポール・ゴーギャン

生没/1848年 – 1903年

19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの画家。セザンヌ、ゴッホと並び後期印象派を代表する人物の一人として知られている。ゴーギャンは、象徴主義運動に影響を受け、自然、神話、精神的なテーマを扱った作品を数多く描いている。強い輪郭線やフラットな面を用いて、独自の色彩感覚から描かれる作品が特徴。また、タヒチやポリネシアの文化や伝統に大きな影響を受け、西洋美術に新たな視点をもたらした。代表作は「タヒチの女」「黄色いキリスト」「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」など。

黄色いキリストと自画像 1890
self-portrait  1903

フィンセント・ファン・ゴッホ

生没/1853年 – 1890年

19世紀末のオランダの画家であり、セザンヌ、ゴーギャンとならび後期印象派を代表する人物。豊かな色彩や強いタッチが特徴で、草原や農場、風景、静物、自画像などを描いた作品が多く知られている。精神的な苦悩や孤独、自殺などのテーマも多く扱っており、その情熱的な表現力から後世に大きな影響を与えた。代表作に「ひまわり」「星月夜」「自画像」など。

self-portrait 1889
耳に包帯を巻いた自画像 1889
耳に包帯を巻いた自画像 1889

エドヴァルド・ムンク

生没/1863年 – 1944年

19世紀末から20世紀半ばにかけて活躍したノルウェーの画家。表現主義の代表的なアーティストの一人。彼の作品は、内面的な感情を表現することに重点を置いており、特に暗く、深い感情を表現することに優れていた。そのため孤独や絶望、病気や死など、人間の苦しみや不安を描いた作品が広く知られている。代表作は「叫び」「太陽」「死の舞踏」などがある。

self-portrait 1896

オディロン・ルドン

生没/1867年 – 1943年

19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの画家で、象徴主義やシュルレアリスムなどの芸術運動にも大きな影響を与えた人物。夢や幻覚、神話や伝説など、非現実的な要素を取り入れた不気味で幻想的な世界観が特徴。これらのテーマは、彼が幼少期に経験した悪夢やトラウマから着想を得ていたとされており、悲しみや孤独感、死といったテーマを想起させる作品を数多く描いた。代表作は「黙示録の四騎士」「アダムとイブ」など。

self-portrait 1880

ピエール・ボナール

生没/1867年 – 1947年

19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの画家。ナビ派の創立メンバー。明るく鮮やかな色彩と、穏やかで安らぎを感じさせる作品が特徴。ボナールは、日常のシーンを好んで描き、人々がくつろいでいる様子や食事をする姿、庭園で過ごす様子などが広く知られている。代表作は「庭園の女たち」「浴室」などがある。

self-portrait 1889
self-portrait 1945

アンリ・マティス

生没/1869年 – 1954年

20世紀で最も革新的なフランスを代表する芸術家。フォービスムの旗手として広く知られたが、1908年頃から大らかな癒しの絵画を探究し、抽象表現を確立。鮮烈な色彩は美術史に転機をもたらし、以後の芸術的発展の基礎を築いた。代表作に「ダンス」「緑の筋のあるマティス夫人の肖像」「豪奢、静寂、悦楽」がある。

self-portrait 1918

ジョルジュ・ルオー

生没/1871年 – 1958年

フォーヴィスムに分類される19世紀末から20世紀半ばに活躍したフランスの画家。どの流派にも属さず、自身の表現のみを追求したことから孤高の芸術家と言われる。宗教をテーマにした作品が多く、それらの作品は20世紀の芸術において非常に重要な位置を占めている。ルオーは現代美術の祖とも呼ばれ、宗教的・倫理的なテーマを芸術的に表現する手法はのちに活躍する多くの芸術家に影響を与えたとされている。代表作は「老いた王」「磔刑」など。

self-portrait 1944

ピート・モンドリアン

生没/1872年 – 1944年

20世紀初頭にオランダで活躍した画家。前衛運動デ・スティルに参加し、新造形主義という抽象的な絵画の発展に貢献した。モンドリアンの作品は一般的に赤、青、黄の三原色と、白と黒のみを使用して制作された直線的なデザインが特徴。垂直線と水平線を使用して、色彩を厳格に配置することで、静的でバランスの取れた独自の絵画を作ることに成功した。モンドリアンの作品は今でも現代アートやデザイン分野において重要な位置を占めている。代表作に「コンポジションII」「ブロードウェイ・ブギウギ」「赤・青・黄のコンポジション」(1930)」など。

self-portrait 1900

カジミール・マレーヴィチ

生没/1878年 – 1935年

20世紀初頭に活躍したロシアの芸術家で、抽象芸術運動「シュプレマティズム」を創始したことで知られている。極限まで形の単純化を絵画上で進め、直線や円などの基本形状による幾何学的な図形のみで描かれる作品が特徴。また作品の中では色彩が極力抑制され、使用される色彩は一般的に単色のものが多く、白や黒、灰色などに限られた。白いキャンバスに黒い正方形が描かれただけの「「白の中の黒」によってシュプレマティズムは一つの到達点を迎え、以降はマレーヴィッチも写実的な作品に回帰していった。代表作は「黒い四角形」「白のシュプレマティズム」「赤い角形」など。

self-portrait 1910
self-portrait 1933

パブロ・ピカソ

生没/1881年 – 1973年

20世紀を代表する画家の1人。キュビスムをはじめとする数多くの芸術運動に関わり、多様な作風で知られている。キュビスム以外にもシュルレアリスムや表現主義、抽象表現主義など、様々な芸術運動に関係していた。ピカソの作品は時代によって大きく変化したがそのどれもが時代の先端に立ち、彼の活動の多くが現代芸術の礎を築いている。代表作は「ゲルニカ」「浜辺を走る二人の女」「泣く女」

self-portrait 1901
self-portrait 1907

【今日の一枚】パブロ・ピカソ『アヴィニョンの娘たち』1/2

マルク・シャガール

生没/1887年 – 1985年

ロシア出身の画家で、20世紀初頭に活躍した画家。象徴主義やシュルレアリスム、キュビスムなどの影響が見られ、独自のスタイルから多くの作品を残した。ファンタジックな色彩や夢のような描写、人物や動物などの図像の多用、空間の独自の解釈が特徴。またユダヤ文化やロシアの民俗芸術など、彼自身のルーツや文化的背景が反映されている作品が多い。代表作に「誕生日」「エッフェル塔の新郎新婦」「青いサーカス」など。

7本指の自画像 1913
パレットと自画像 1955

マルセル・デュシャン

生没/1887年- 1968年

フランス出身で美術史上最も重要な人物の一人現代アートの創始者とも呼ばれる。デュシャンの最も有名な特徴の一つは「レディメイド」と呼ばれる、既製品を芸術作品として展示する手法をしたことにあった。小便器を逆さまにして芸術作品として展示した「泉」や、自転車のホイールを椅子に組み合わせた「自転車のホイール」など、多くのレディメイドを制作し、アートを「モノ」から「コト(出来事)」に変えた。代表作は「泉」「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」など。

self-portrait 1958

【今日の一枚】マルセル・デュシャン「泉」

ジョルジュ・デ・キリコ

生没/1888年 – 1978年

イタリア出身の画家で、20世紀初頭にシュルレアリスム運動の先駆けとなる作品を生み出した。デ・キリコの作品は形而上絵画と呼ばれており、神秘的な空間や寓意的な象徴が多用され、深い哲学的思考や懐古的な要素が含まれている。静止した空間の表現、無人の広場や建築物、影や光などの影響を受けた影の表現、背景に存在する無数のオブジェクトなどが大きな特徴。代表作は「不安を与えるミューズたち」「ヘクトルとアンドロマケ」「愛のうた」など。

スタジオでの自画像 1935

マン・レイ

生没/1890年 – 1976年

20世紀初頭に活躍したアメリカ合衆国出身の写真家、画家、彫刻家。 ダダイスムやシュルレアリスムといった芸術運動の一員として、独創的な芸術作品を生み出した。マン・レイは様々な表現技法を駆使し、写真というメディアを美術作品として扱ったことが特徴。彼の作品には、実験的な技法や不思議な合成技術が多用され、抽象的な要素や幻想的な要素が含まれるとともに肉体や性的表現、社会や政治に対する批評などが含まれている。代表作は「涙」「アングルのヴァイオリン」「破壊されるオブジェ」など。

self-portrait 1941

エゴン・シーレ

生没/1890年 – 1918年

オーストリアの芸術家で、表現主義運動の代表的な芸術家の一人。感情的で露骨な性表現がシーレの特徴だった。彼は自身の自画像を数多く描き、さまざまな構図で自身を描いた。そこには自己表現や内省的な感情表現が込められており、精神的な葛藤や孤独感を表現していると解釈されている。また女性の身体表現は20世紀初頭の美術界に大きなセンセーショナルを与えたことで知られている。代表作は「ほおずきのある自画像」「悲しみの女」「抱擁(恋人たち)」。

ほおずきの実のある自画像 1912

バルテュス

生没/1897年 – 1962年

本名バルタザール・ミシェル・クロソウスキー・ド・ローラ。フランスの画家で20世紀を代表する芸術家の一人。シュルレアリスムや新印象派の影響を受けながら、独自の作風を確立した。静物や風景、特に少女の肖像画を好んで描き、作品には色こく表れるセクシュアリティやエロティシズムが特徴。構図や空間表現に独特の技法を用いており、奥行きや立体感が強調された作品が多い。自身にとって「完璧な美の象徴」である少女を題材に、神秘的な作品を数多く輩出した。代表作は「夢見るテレーズ」「部屋」など

猫たちの王 1935
self-portrait 1940

ルネ・マグリット

生没/1898年 – 1967年

ルネ・マグリットは、ベルギー出身の芸術家でシュルレアリスムの代表的な人の一人。20世紀の芸術に大きな影響を与えたことで知られる。マグリットの最大の特徴は、日常の対象を非日常的な方法で表現することにある。現実を異なる角度から見ることで、人々に新しい視点を与え、独創的な作品を数多く生み出した。代表作は「恋人たち」「ゴルコンダ」「イメージの裏切り」など。

self-portrait 1923
千里眼(自画像) 1936

ジョアン・ミロ

生没/1893年 – 1983年

スペイン出身でシュルレアリスムの代表的な芸術家。自然の要素や生命力、宇宙や星座などのイメージが混ざり合った独特の世界観を抽象的なモチーフを駆使して描くことが特徴。ミロは手書きの文字を使い、その文字が作品の一部となることが多かったことから、後のコンセプチュアル・アートや、ポップアートに大きな影響を与えた現代美術の重要な先駆者の一人として知られている。代表作には「青い星」「1750年のミルズ夫人の肖像」などがある。

self-portrait 1919
self-portrait 1937

藤田嗣治

生没/1900年 – 1975年

日本を代表する洋画家の一人。フランスの印象派やポスト印象派から影響を受け、光と色を重視した描写を行った。中でも藤田特有の「乳白色」が彼の作品の最大の特徴であり、唯一無二の魅力と国内外から絶賛された。海外で活動する日本芸術家の先駆者としても知られ、1930年代にヨーロッパに渡り、フランスやスペインなどで活躍した。代表作に「寝室の裸婦キキ」「アッツ島玉砕」「私の夢」などがある。

猫との自画像 1926
猫との自画像 1928

ジャン・デュビュッフェ

生没/1901年 – 1985年

20世紀のフランスのアーティスト、アール・ブリュット(英:アウトサイダー・アート)の創始者として知られている。アール・ブリュット(英:アウトサイダー・アート)は、独学または趣味として素朴に制作された美術のことを指し、デュビュッフェは自然や子どもたちの描画から影響を受け、独自の作風を確立した。その作風は、従来の美術の枠組みにとらわれない自由な表現方法として注目され、後世に名を残した。代表作には、「アパートメントハウス」や「L’Hourloupe」などがある。

self-portrait 1966

サルバドール・ダリ

生没/1904 – 1989

20世紀を代表するスペインの芸術家で、シュルレアリスムの代表的な人物の一人。夢や幻想、性を想起させる作品が多く、非現実的な形やシンボルを多用することで知られている。また作品に散りばめられたメタファー(隠喩)は一つの作品から多くの解釈を可能にしている。もっとも影響力を持った芸術家の一人として広く知られ、現代芸術に多大な影響を与えた。代表作は「記憶の固執」「聖アントワーヌの誘惑」「茹でた隠元豆のある柔らかい構造(内乱の予感」など。

self-portrait 1921
キュビスムの自画像 1926

フリーダ・カーロ

生没/1907年 – 1954年

メキシコの画家であり、20世紀前半に活躍した女性芸術家の一人。彼女の現代芸術史において重要な位置を占め、彼女自身の苦悩や痛み、政治的なメッセージなどを込めた自画像を数多く制作した。使われる色彩は明るく、鮮やかだが、作品のモチーフは暴力的で痛々しい表現を含んでいる。フリーダ・カーロの作品は、彼女自身の人生や経験に基づいており、それゆえに強烈な個性を持っている。そのことから「セルフポートレート絵画の先駆者」と言われている。

ひげネックレスとハチドリの自画像 1940

【今日の一枚】自身の痛みと経験を刻んだ自画像 フリーダ・カーロ 「いばらの首飾りとハチドリの自画像」

フランシス・ベーコン

生没/1909年 – 1992年

20世紀を代表するイギリスの画家の一人。歪んだ人物像や動物像を多く描き、不気味で暗い雰囲気の作品が特徴。暗い色調を用いることが多く、不安感や絶望感を表現している。さらにベーコンは、自画像を多く描いた画家としても知られている。これらの自画像には彼自身の内面的な葛藤や苦悩を反映しているとされ、人物像にもその影響が見られる。
また、実存主義の思想に基づいた作品を制作し、人間の本質的な孤独や虚無感、死の存在に対しての考えを反映させた作品を数多く残した。代表作は「ベラスケスによるインノケンティウス10世の肖像後の習作」「黒の三連」など。

self-portrait 1969

アンディー・ウォーホル

生没/1928年 – 1987年

20世紀を代表するアメリカの芸術家であり、ポップアートの代表的な芸術家の一人。、大量生産された商品やマスコミ文化からヒントを得た作品を数多く手がけた。中でもモチーフを単純化し、シルクスクリーン印刷技法を用いて描かれたカラフルでポップな作品が有名。
さらにウォーホルは自身をブランド化し、作品の販売やマーケティングに積極的に取り組み、芸術家という存在自体が商品であり、芸術の本質を問い直すような試みを行った。代表作には、「マリリン・モンロー」、「キャンベル・スープ缶」などがある。

self-portrait 1969

ジャン=ミシェル・バスキア

生没/1960 – 1988

20世紀末に活躍したアメリカの画家であり、現代美術において最重要人物として知られる。バスキアの作品にはアフリカ系アメリカ人の文化やアイデンティティ、社会問題が色濃く現れることが特徴。それらをストリートアートやグラフィティなどのサブカルチャーから取り入れた手法で数多くの作品を残した。中でも黒人差別や社会問題に対する批判を描いた作品は同時代の社会に大きな影響を与えた。
バスキアは数多く自画像を描いており、そこには社会的・政治に対しての批判や自身のアイデンティティ探求が表れている。代表作は「Untitled (Skull)」や「Hollywood Africans」など。

self-portrait 1982
self-portrait 1984

バスキアが絵に描いた三つのシンボルの意味

まとめ

いかがでしたでしょうか?
これで自画像を描いた45人の芸術家の解説は以上となります。
上掲している作品全てが各芸術家の代表的な作風というわけではありませんが、自身を描いた芸術家たちの自画像は私たちに多くの示唆を与えてくれます。今回は各芸術家の簡単な説明となってしまったので、気になった芸術家がいればご自身で調べてみることをお勧めいたします。

 

「最後の晩餐」を描いた7人の画家