
2024.08.13
【印象派 結成150周年】世界一わかりやすく印象派を解説してみた
印象派が誕生してから、2024年で150年を迎えました。
名もなき若手画家たちが起こした小さな革命は、やがて美術の流れそのものを変えていきました。
なぜ、彼らの絵は150年経った今もなお、多くの人を惹きつけてやまないのでしょうか?
今回はいまさら聞けない”印象派”について可能な限りわかりやすく解説してみました。
本記事をお読みいただくことで
「印象派は何がすごかったのか」
「印象派ってその後美術にどんな影響を与えたのか」
といった印象派の全体像を知ることができるようになるかと思います。是非ともご一読ください。
Contents
印象派ってなに?
印象派ってどんな絵?
印象派の絵を一言で表すなら 「自然の光と色の”印象”を捉えた絵画」 。
印象派の絵は、まさに 瞬間の「光」「色」「空気」を捉えた 鮮やかさが魅力。
これらの絵画は、細かい線で描かれた伝統的な作品とはちがい、色と光を大胆に捉えて、 見る人に強烈な「印象」 を与えます。
印象派の作品は、短い瞬間の美しさをとらえ、それを絵の中で生き生きと描き出しました。
太陽の光が水面に反射する様子や、風に揺れる木々、街の賑わいなど、日常のシーンが印象派の画家たちの手によって、特別な美しさを持ってキャンバス上に描かれます。
なぜ「印象派」と呼ばれるの?

この名称は、クロード・モネの作品「印象・日の出」(1872)が由来。
『第一回印象派展』(1874)で展示された印象派の作品に、当時の人々は大きな戸惑いを感じたそうです。
「何が描かれているかがわからなかった」 という感想も多かったと言われ、それほど現在とは芸術を見る視点が違っていたことを意味しています。
そんな中、ある美術評論家が新聞の記事で、モネの絵を見てこう書きました。
「これはただの“印象”を描いた絵。まるで作りかけの壁紙だ!」と、きびしく批判したのです。
このときに使われた「印象」という言葉が、「印象派」という名前のはじまりになりました。
もともとは彼らを批判するためのバカにするような意味で言われた言葉でしたが、モネたちはその名前を受け入れて、自分たちの新しい絵のスタイルに使うようになりました。
今では「印象派」は、光や色の美しさ、見る人の心に残る“印象”を大切にした芸術表現として、世界中で愛されています。
印象派の何が新しかったのか
印象派の新しさは、「瞬間の印象を絵にする」こと にありました。そもそも印象派より前の画家たちにとって、絵画は部屋の中にこもって描くものでした。その多くは人や物、昔の出来事や宗教の話など、はっきりとしたストーリーのあるものを描くことが多かったのです。時間がたつことで変わっていく光や風景を、絵にするという考えは、ほとんどありませんでした。
しかし印象派の画家たちは、空気や光の変化をとらえ、それを絵にしました。
この印象派の新しさの背景には、 「自然の中での屋外制作」 があります。
印象派の画家たちは自然の光の中で風景を観察し、光や影がどう変わるかを敏感に捉え、その場の雰囲気や直感を大切にしました。
「描き方」も「描くモチーフ」も全てが新しかったため、印象派たちの作品は世間からなかなか受け入れられませんでした。しかし新しい表現を求める若い画家たちの作風が知られていく中で、1880年代後半にはフランスや国外でも広く知られた作風になっていきました。
印象派によってその後の芸術の歴史は大きく変わった
印象派のおかげで、日常の風景や一瞬の光の美しさを捉えることが新たなテーマになったのですが、これは美術の歴史にとっても大きな転換点となりました。
屋外での制作を好み、変わっていく自然の光と影をキャンバスに描く印象派の画家たちの表現方法は、色彩を鮮やかに、大胆に使うことを可能にしました。
(屋外で絵を描けるようになったのはチューブ絵の具が開発されて、絵の具を外に持ち運ぶことができるようになったことも大きく関係しているとされています。)
それによって 絵はただ物語を伝えるだけでなく、見る人の感情に訴えかけるものへ と変わっていったのです。
印象派の画家たちは、特別ではない、普通の日常を多く描きました。神話や歴史、有名な人やモチーフが出てこない絵を描くことで、画家たちはまっさらな状態から自分たちの表現で絵を描くことができるようになったのです。
印象派の前と後では、アートに対する考え方が大きくに変わりました。
彼らの試みは、後の芸術の流れに大きな影響を与え、現代にも通じる芸術の基礎にもなっています。今日、私たちがアートを見た時に感じる多様性は、印象派がもたらした大きな遺産の一部といえます。
印象派を知るためのキーワード「色」と「光」
印象派の絵の中の色のひみつ
1.実は明るい色で描かれている影
一般的に「影」というと暗い色を思い浮かべがちですが、印象派の画家たちは違いました。
印象派の画家たちは「影」を明るい青や紫、緑などで描くことで、絵に生命感を吹き込むことに成功しました。
私たちが実際に目にする影も、実は黒や灰色ではなく、いろいろな色を持っています。
(気になる方は公園の木の影を見てみてください。)
印象派の画家たちは、まさに自然の中にある色に目を向け、それをキャンバスに生き生きと表現しました。
そしてその明るい色は、太陽の光が反射して生まれる自然の色彩が描かれています。印象派の画家たちは日の光の下で色どうしがどのように見えるかを探求し、その知識を作品に活かしたのです。そのため絵画はただの風景を超えて鮮やかな光と色を描き出すようになりました。
2.実はとなり合う色の調和で絵が完成している
印象派の画家たちは、色のとなり合わせにおいた時に生まれる「色の調和」を非常に大切にしました。
印象派の画家たちの作品は近くで見ると一つ一つの色が独立したように見えますが、少し離れて見ると、色が合わさり、全く新しい色合いを生み出していることに気が付きます。これは彼らが「色の調和」を深く理解していた証拠です。
この方法によって絵に奥行きが生まれ、見る角度や距離によって色の印象が変わる、ダイナミックな作品が完成したのです。
印象派の画家たち全員がこの描き方を取り入れたというわけではないですが、多くの印象派の画家たちがこれらの表現で光と影、色の微妙な変化を捉え、瞬間瞬間の美しさを表現しました。
光を描くことに成功した印象派の画家たち
印象派の画家たちは、ただ色を使うのではなく「光そのものを描く」ことに情熱を傾けました。
かれらは、光が何かに当たって反射したときに生まれる色の変化や瞬間で変わる光を捉えることに成功しています。これが印象派の絵が持つ魅力の一つです。
例えばクロード・モネは「睡蓮」のシリーズで、水面に映る光とその周りの風景の変化を何度も描きました。
モネは、一日の中で時間が経つにつれて変化する光の様子を見事にとらえ、瞬間の美しさを表現しました。また「サン=ラザール駅」(1877)では、駅の中に差し込む日の光が生む影と光のコントラストが活気ある都市の情景を生き生きと描き出しています。
さらにピエール=オーギュスト・ルノワールも光と影を独自の視点で捉えた画家の一人です。彼の代表作「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」(1877)、「舟遊びをする人々の昼食」(1880)では、人間の表情やしぐさがとても明るく描かれています。それに加えて人々の顔や服装に当たる自然光が絵の中を一層明るいものにしています。
印象派の画家たちにとって、光はただの描くためのモチーフではありませんでした。光は印象派の画家たちが表現したかった美しさの一部であり、印象派の画家たちにとって深い意味を持っています。
印象派のスーパースター
印象派と呼ばれる画家たち
印象派は19世紀後半には世界的に認知され、さらにその中にはその名を世界に轟かせたスーパースターの画家たちがいます。中でも有名なのはクロード・モネ、エドガー・ドガ、ピエール=オーギュスト・ルノワールの三人でしょう。彼らは、それぞれに独自のスタイルと技法を持ち、日常の風景や人々の生活を新しい視点で捉え、美術の世界に革命をもたらしました。
クロード・モネ
クロード・モネは、印象派の中でも特に有名な画家で「印象、日の出」(1872)はこの運動の名前の由来となった作品です。
モネは、一瞬の自然の美しさと光の変化を捉えることに長けていました。彼の「睡蓮」シリーズは特に知られており、自宅の庭にある池を何度も描きました。これらの絵は、水面に映る光と色、そしてその微妙な変化を捉えることに成功しており、絵の中のものが動いているかのような感覚を与えます。
モネは、視覚的な印象を重視し、細かいディテールよりも全体の雰囲気を大切にしています。
エドガー・ドガ
エドガー・ドガは、特にバレエダンサーの舞台裏を描いた作品で知られています。
彼は、モチーフの動きと姿勢の瞬間を捉えることに優れており、バレエダンサーの練習風景や舞台上の現実をリアルに描きだしています。ドガは馬のレースや日常生活の場面もよく描きましたが、その全ての作品に共通して人物の動きや姿勢への深い洞察が見られます。彼は伝統的な構図を避け、それまでにはないアングルから題材を描きました。
ドガの作品は、印象派の中でも一際個性的な存在感を放っています。
ピエール=オーギュスト・ルノワール
ピエール=オーギュスト・ルノワールは、人間の喜びと生命の美しさをたたえる作品で知られています。
彼の絵は光と色の豊かな表現によって、描いたものに暖かさと生き生きとした生命感を与えました。
特に「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」(1877)などの作品では、人々が集まり楽しむ様子を明るく華やかな色使いで描いています。
ルノワールは、人物の柔らかな肌の質感や衣服のしわの表現が特に優れており、その技術の高さが伺えます。
彼は印象派より前の時代にはなかった「生活の中の幸福な瞬間」を描いたことで、多くの人から支持され、美術の歴史にその名を刻みました。
アルフレッド・シスレー
アルフレッド・シスレーは、印象派のリーダーのカミーユ・ピサロから「最も印象派らしい絵を描く人」として認められ、これまで解説した印象派のルールを忠実に表現した作品で知られます。
実際にシスレーの作品の光の中の陰や色は豊かさで溢れています。生前はなかなか評価が高まりませんでしたが、亡くなった後にシスレーの印象派での貢献が見直されるようになり、近年では人気の画家となりました。
これらの画家たちは、それぞれに異なるテーマやスタイルを持ちながらも、印象派という大きな流れの中で美術界に新たな風を吹き込みました。彼らの作品は、見る人たちに強い印象を与え、美術の可能性を広げることに大きく貢献しました。
まとめ – 印象派は「瞬間の光と色の美しさ」を伝えた新しい芸術のかたち
印象派とは、ただ風景を描いた絵ではなく、その一瞬の光や空気、色の変化を感じ取って表現した芸術です。
それまでの絵画の常識を大きく変え、「絵とはこうあるべき」という考えを飛び越えた、まさにアートの転換点でした。
本記事では、印象派とは何か、なぜそう呼ばれるようになったのか、そしてどのように美術の歴史に影響を与えたのかを初心者の方にもわかりやすく解説してきました。
2024年は印象派誕生150年の節目の年。
この機会にもう一度、印象派の魅力にふれてみてはいかがでしょうか。
モネやルノワール、ドガの作品がなぜ今でも世界中の人を惹きつけるのか、その理由がきっと見えてくるはずです。