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2024.02.09

【印象派 結成150周年】世界一わかりやすく印象派を解説してみた

2024年は、印象派が結成してから150年を迎える特別な年となります。そのため、2024年は印象派にまつわる美術展が各地で開催される予定となっています。そこで、今回はいまさら聞けない”印象派”について可能な限りわかりやすく解説してみました。本記事をお読みいただくことで「印象派は何がすごかったのか」「印象派ってその後美術にどんな影響を与えたのか」といった印象派の全体像を知ることができるようになるかと思います。是非ともご一読ください。

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印象派ってなに?

印象派ってどんな絵?

印象派の絵を一言で表すとするなら 「自然の光と色の”印象”を捉えた絵画」 

印象派の絵は、まさに瞬間の「光」「色」「空気」を捉えた鮮やかさが魅力です。これらの絵画は、細かい線で描かれた伝統的な作品とはちがい、色と光を大胆に捉えて、見る人に強烈な「印象」を与えます。印象派の作品は、詩の一節のように、短い瞬間の美しさを捉え、それを絵の中で生き生きと描き出します。太陽の光が水面に反射する様子や、風に揺れる木々、街の賑わいなど、日常のシーンが印象派の画家たちの手によって、特別な美しさを持ってキャンバス上に描かれます。

なぜ「印象派」と呼ばれるの?

クロード・モネ「日の出、印象」1872

この名称は、クロード・モネの作品「印象・日の出」(1872)が由来となっています。

『第一回印象派展(1874)』で展示された印象派の作品に、当時の人々は大きな戸惑いを感じたといいます。「何が描かれているかがわからなかった」という感想も多かったと言われ、それほど現在とは芸術を見る視点が違っていたことを意味しています。
そんな中、美術評論家のルイ・ルロワ(1812-1885)は、展覧会初日から10日たった日の風刺新聞『ル・シャリヴァリ』に「印象派の展覧会」という記事を発表しました。記事は対話形式で書かれており、印象派の斬新さについていけない架空のベテラン画家ジョゼフ・ヴァンサンは、「印象・日の出」を以下のように酷評します。

― “印象かぁー。確かにわしもそう思った。わしも印象を受けたんだから。つまり、その印象が描かれているというわけだなぁー。だが、何という放漫、何といういい加減さだ! この海の絵よりも作りかけの壁紙の方が、まだよく出来ている位だ。”(リウォルド、ジョン 著、三浦篤・坂上桂子 訳『印象派の歴史 下』KADOKAWA〈角川ソフィア文庫〉、2019年)

このようなヴァンサンの怒りをルロワは話の中でなだめながら、堅苦しい考え方をする人々は、印象派という芸術の新しいスタイルを理解できないだろうと暗に皮肉を込めて伝えているのです。この文章ではルロワ自身は印象派の新しさを評価しつつも、世間からは厳しい批判があったことを物語っています。実際にルロワが「印象派」という言葉を使った時、それは「からかう意味」で人々の間で広まりました。
しかし、このグループの画家たちはやがてこの名称を受け入れ、自分たちの新しい芸術を表す名称として使い始めました。今では「印象派」という言葉は、瞬間の感動や景色を捉えた美しい芸術作品を指す称賛の言葉となっています。

印象派の何が新しかったのか

 印象派の新しさは、「瞬間の印象を絵にする」こと にありました。

そもそも印象派以前の画家たちにとって、絵画は部屋の中にこもって人や物、歴史や宗教などストーリーを描くものであり、変わっていくものや時間の流れを感じさせるようなテーマを描く発想がなかったのです。
しかし印象派の画家たちは、その場の空気や光の変化を捉え、それを絵にしました。
この印象派ならではの新しさの背景には、 「自然の中での屋外制作」 があります。印象派の画家たちは自然の光の中で風景を観察し、光や影がどう変わるかを敏感に捉え、その場の雰囲気や直感を大事にしました。
「描き方」も「描くモチーフ」も全てが新しかったため、印象派結成当初は世間からなかなか受け入れられませんでした。しかし新しい表現を求める若い画家たちの作風が知られていく中で、1880年代後半にはフランスや国外でも広く知られたグループとなっていきました。

印象派によってその後の芸術の歴史は大きく変わった

印象派のおかげで、日常の風景や一瞬の光の美しさを捉えることが新たなテーマとして取り入れられるようになるのですが、これは美術史にとっても大きな転換点となりました。 
まず屋外での制作を好み、変わっていく自然の光と影をキャンバスに描き出すという表現方法は、色彩を鮮やかに、大胆に使うことを可能にしました。(屋外で絵を描けるようになったのはチューブ絵の具が開発されて、絵の具を外に持ち運ぶことができるようになったことも大きく関係しているといいます。)
それによって絵画はただ物語を伝えるだけでなく、見る人の感情に訴えかけるものへと変わっていったのです。
一方で印象派の画家たちは、特別ではない、普通の日常を多く描きました。神話や歴史、有名な人やモチーフが出てこない絵を描くことで、画家たちはまっさらな状態から自分たちのスタイルで絵を描くことができるようになったのです。
印象派の登場以前と以後では、アートに対する考え方が大きくに変わりました。彼らの試みは、後の芸術の流れに大きな影響を与え、現代にも通じる芸術の基礎にもなっています。今日、私たちがアートを見た時に感じる多様性は、印象派がもたらした大きな遺産の一部といえます。

印象派を知るためのキーワード「色」と「光」

印象派の絵の中の色のひみつ

 実は明るい色で描かれている影 

一般的に「影」というと暗い色を思い浮かべがちですが、印象派の画家たちは違いました。彼らは「影」を明るい青や紫、緑などで描くことによって、絵に生命感を吹き込むことに成功しました。
私たちが実際に目にする影も、実は黒や灰色ではなく、いろいろな色を持っています。(気になる方は公園の木の影を見てみてください。)印象派の画家たちは、まさにそのような自然にある色に目を向け、それをキャンバスに生き生きと表現したしました。さらにその明るい色は、太陽の光が反射して生まれる自然の色彩が描かれています。印象派の画家たちは日の光の下で色どうしがどのように見えるかを探求し、その知識を作品に活かしたのです。そのため絵画はただの風景を超えて鮮やかな光と色を描き出すようになりました。

 実はとなり合う色の調和で絵が完成している 

印象派の画家たちは、色のとなり合わせにおいた時に生まれる「色の調和」を非常に大切にしました。印象派の画家たちの作品は近くで見ると一つ一つの色が独立したように見えますが、少し離れて見ると、色が合わさり、全く新しい色合いを生み出していることに気が付きます。これは彼らが「色の調和」を深く理解していた証拠といえます。この方法により絵に奥行きが生まれ、見る角度や距離によって色の印象が変わる、非常にダイナミックな作品が完成したのです。

全ての印象派の画家たちがこれらの描き方を取り入れた訳ではありませんが、多くの印象派の画家たちがこれらの表現で光と影、色の微妙な変化を捉え、瞬間瞬間の美しさを表現しました。

光を描くことに成功した印象派の画家たち

印象派の画家たちは、ただ色を使うのではなく「光そのものを描く」ことに情熱を傾けました。彼らは、光が何かに当たって反射したときに生まれる色の変化や瞬間で変わる光を捉えることに成功しました。これが印象派の絵が持つ魅力の一つです。

モネ「サン=ラザール駅」1877
ルノワール「舟遊びをする人々の昼食」1880

例えばクロード・モネは「睡蓮」のシリーズで、水面に映る光とその周りの風景の変化を何度も描きました。モネは、一日の中で時間が経つにつれて変化する光の様子を見事に捉え、瞬間の美しさを表現しました。また「サン=ラザール駅」(1877)では、駅の中に差し込む日の光が生む影と光のコントラストが活気ある都市の情景を生き生きと描き出しています。

さらにピエール=オーギュスト・ルノワールも光と影を独自の視点で捉えた画家の一人です。彼の代表作「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」(1877)、「舟遊びをする人々の昼食」(1880)では、人間の表情やしぐさがとても明るく描かれています。それに加えて人々の顔や服装に当たる自然光が絵の中を一層明るいものにしています。

印象派の画家たちにとって、光はただの描くためのモチーフではありませんでした。光は印象派の画家たちが表現したかった美しさの一部であり、印象派の画家たちにとって深い意味を持っています。

印象派のスーパースター

 印象派と呼ばれる画家たち

印象派は19世紀後半には世界的に認知され、さらにその中にはその名を世界に轟かせたスーパースターの画家たちがいます。中でも有名なのはクロード・モネ、エドガー・ドガ、ピエール=オーギュスト・ルノワールの三人です。彼らは、それぞれに独自のスタイルと技法を持ち、日常の風景や人々の生活を新しい視点で捉え、美術の世界に革命をもたらしました。

 

 クロード・モネ 

クロード・モネは、印象派の中でも特に有名な画家で「印象、日の出」(1872)はこの運動の名前の由来となった作品です。モネの作品は、一瞬の自然の美しさと光の変化を捉えることに長けていました。彼の「睡蓮」シリーズは特に知られており、自宅の庭にある池を何度も描きました。これらの絵は、水面に映る光と色、そしてその微妙な変化を捉えることに成功しており、絵の中のものが動いているかのような感覚を与えます。モネの作品は、視覚的な印象を重視し、細かいディテールよりも全体の雰囲気を大切にしています。

「睡蓮」1902

 

クロード・モネ

 

 エドガー・ドガ 

エドガー・ドガは、特にバレエダンサーの舞台裏を描いた作品で知られています。彼は、モチーフの動きと姿勢の瞬間を捉えることに優れており、バレエダンサーの練習風景や舞台上の現実をリアルに描きだしています。ドガは馬のレースや日常生活の場面もよく描きましたが、その全ての作品に共通して人物の動きや姿勢への深い洞察が見られます。彼は伝統的な構図を避け、それまでにはないアングルから題材を描きました。ドガの作品は、印象派の中でも一際個性的な存在感を放っています。

「エトワール」1876
エドガー・ドガ

 

 ピエール=オーギュスト・ルノワール 

ピエール=オーギュスト・ルノワールは、人間の喜びと生命の美しさをたたえる作品で知られています。彼の絵は光と色の豊かな表現によって、描いたものに暖かさと生き生きとした生命感を与えました。特に「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」(1877)などの作品では、人々が集まり楽しむ様子を明るく華やかな色使いで描いています。ルノワールは、人物の柔らかな肌の質感や衣服のしわの表現が特に優れており、その技術の高さが伺えます。彼は印象派以前にはなかった「生活の中の幸福な瞬間」を描いたことで、多くの人から支持され、美術の歴史にその名を刻みました。

「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」1876

 

ピエール・オーギュスト・ルノワール

 

 アルフレッド・シスレー 

アルフレッド・シスレーは、印象派のリーダーのカミーユ・ピサロから「最も印象派らしい絵を描く人」として認められ、これまで解説した印象派のルールを忠実に表現した作品で知られます。実際にシスレーの作品の光の中の陰や色は豊かさで溢れています。生前はなかなか評価が高まりませんでしたが、亡くなった後にシスレーの印象派での貢献が見直されるようになり、近年のオークションなどで高値で落札される人気の画家となりました。

これらの画家たちは、それぞれに異なるテーマやスタイルを持ちながらも、印象派という大きな流れの中で美術界に新たな風を吹き込みました。彼らの作品は、見る者に強い印象を与え、美術の可能性を広げることに大きく貢献しました。

「ヴィルヌーヴ=ラ=ガレンヌの橋」1872
アルフレッド・シスレー

印象派の作品が見れる美術館

印象派の作品は世界中で今なお愛されているのでさまざまな国の美術館で見ることができます。2024年に開催される印象派にまつわる美術展で最も大規模なのは間違いなくフランスのオルセー美術館で開催されるパリ 1874 印象派の発明」(2024/3/26〜7/14)でしょう。
しかし全ての方がフランスのパリまでわざわざ行けるわけではないと思います。ですが安心してください。2024年は日本でも印象派にまつわる美術展がいくつか開催中または予定となっています。是非ともこの印象派が結成して150周年の節目に足を運んでみてください。

印象 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵
2024/01/2704/07
東京都美術館(東京)
→HP

 

モネ 連作の情景
2024/02/10~05/06
大阪中之島美術館(大阪)
→HP

 

モネ 睡蓮のとき
2024/10/05~25/02/11
国立西洋美術館(東京)
→HP

 

【2024年版】展覧会スケジュール 展覧会・美術展一覧  関東・関西 (最終更新 2024/2/07)