ARTMEDIA(TOP) > 盗まれた世界の名画 フェルメール「合奏」

2021.02.19

盗まれた世界の名画 フェルメール「合奏」

今回は、美術に関しての事件−–とくに「盗まれた美術品」に着目したいと思います。

「盗まれた美術品」という言葉を聞いて、真っ先に「モナリザ」を連想される方も多いのではないかと思います。「モナリザ」は1911年に盗難の被害に遭い、その2年後ルーブル美術館に戻されました。この事件で飛躍的に知名度が上がったというエピソードは、美術ファンの間では広く知られています。ほかにもムンクの「叫び」なども過去に盗難の被害に遭っていたことから、世界中に点在する名画は常に盗難の危険と隣り合わせにあると言えるでしょう。

美術品の窃盗は闇ビジネスの中でもとくに大きなマーケットを占めており、現在まで消えた絵画や彫刻は10万点以上にのぼると言われています。実際、世界中の違法取引市場の中でも美術品・古美術品は薬物、武器輸入についで第3位の金額と考えられ、その被害額は年間15億から60億に及ぶと推測されています。

中でも盗難されやすい画家として有名なのが、17世紀オランダで活躍したフェルメールです。代表作「真珠の耳飾りの少女」「牛乳をそそぐ女」は世界的に人気が高く、誰しも一度は目にしたことのある作品と言われます。

彼の作品はこれまでに5回の盗難事件が起き、4点の作品が被害に遭っています。数だけで言えばピカソの方が盗難された作品が圧倒的に多い(約500点)ですが、フェルメールは現存する作品がわずか35点と言われます(ピカソが生涯で残した作品は推定5万点)。作品毎の盗難確率としては、実にピカソの約14倍という高さなのです。

そこで今回は、なぜフェルメールが盗まれるのか?をテーマに解説をして参ります。

フェルメールが盗まれる理由 その1” 「希少性が高い」

今さら言うことではないかもしれませんが、フェルメールは世界中どこの国でも大人気で、展覧会が開かれるたびに満員御礼となります。日本でも2019年に開催されたフェルメール展は、その年の入場者数1位になりました(68万人)。これほど展覧会に人が殺到するのは、フェルメールの作品数が少ないことが大きな理由の一つとなっています。作品数が少なければ展覧会自体の開催機会も少なくなるので、一つの展覧会に多くの人が殺到するのです。世界中の多く人が知っている芸術家なのに作品が少ない。それほどまでに絵の価値がわかりやすい芸術家はそう多くはありません。

フェルメールが盗まれる理由 その2 「学術価値が高い」

「作品数が少ないから、プレミア感が高まり、資産価値が上がりやすい」

これはフェルメールの作品だけに限らず多くの人気のものに共通している事柄です。しかしフェルメールに関してはそれに加えて生涯についてなぞが多く、記録に残っているのは役所の資料しかないと言われています。謎が多いということは解明する余地も多いということですから、研究する人間も増える一方です。しかしフェルメールを語るものは作品以外にほとんどありませんから、当然研究資料として欲しがるわけです。さらに希少価値も高いとなれば、多くの人が欲しがるのは納得です。

フェルメールが盗まれる理由その3 「作品が小さい」

フェルメールの作品は、当時としては小さなもの、小作品が多いことで知られています。実際、ほとんどが1メートル四方のサイズに収まってしまうんです。有名な「真珠の耳飾りの少女」で44.5 cm × 39 cm2度の盗難に遭った「手紙を書く婦人と召使」で72.2 cm × 59.5 cmしかありません。どの絵も大人なら片手で抱えて動けるわけですから、泥棒側としても仕事がしやすいことが挙げられます。

さて、今回のテーマが盗まれた美術品である以上触れないといけない事件があります。

皆さんは美術史上最大の窃盗事件はご存知でしょうか?

これは1990年ボストンにあるイザベラスチュアート美術館で起きた事件です。二人の泥棒が侵入しフェルメール、ゴヤ、レンブラントや他の著名な芸術家などの作品を、なんと13点も奪い去っていきました。

事件から30年が経過した現在も犯人は捕まっておらず、美術品の行方も不明。わずか81分間の犯行で盗まれた美術品の価値は、総額およそ約550億円以上になるとされています。想像も及ばない額ですが、その時、最も値段の高い盗み出された美術品が生まれました。

 それがこちらのフェルメール作「合奏」です。

フェルメール「合奏」(盗難された作品)
フェルメール「音楽の稽古」

この合奏は「音楽の稽古」と同様の場面を描いています。

フェルメールは古くからカメラオブスクーラという初期のカメラみたいなものの助けを借りて構図を組み立てたと推測されています。

そのため誇張された遠近法で前方のものがやたらと大きく見えること、画面のある部分(特にまばゆいハイライトの部分)の焦点がぼやけていることが特徴です。この二つは似た作品といえば似た作品ですが合奏の作品を音楽の稽古で補うことはできません。盗まれた合奏は厳密な評価額は出ていませんがなんと時価2億ドル(220億円)以上の価値があるとされています。30年経った現在も行方不明なので人類が共有できる財産は失ったままです。

それにしても泥棒は盗んだ美術品ってどうするの?と思いますよね。

当たり前ですが、基本的に市場で出回ることはまずありません。裏社会の販売ルートで捌かれるようです。しかし出回った場合は元の場所に戻るよう取り決められているため、買った側にも責任が問われるとのルールが存在しています。そのため表舞台に顔を出すことはなく、秘密裏に売買がされているとのことです。その詳しいレポートはサイモン・プーフト著『「盗まれた名画」美術館』(創元社)という本に紹介されています。気になる方はよかったら読んでいただければと思います。

「盗まれた世界の名画」美術館