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2025.08.28

【何が違う?】印象派とポスト印象派

モネにルノワール、ゴッホにセザンヌ―――日本では、常に印象派とポスト印象派が人気です。彼らの企画展は毎年のように開催され、多くの集客に成功しています。今年も「ルノワール×セザンヌモダンを拓いた2人の巨匠」や、「オルセー美術館所蔵 印象派室内をめぐる物語」、「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」など、印象派とポスト印象派に焦点を当てた展覧会が開催中、もしくは開催予定となっています。

しかしながら印象派とポスト印象派は、一見似ているようで、実は全くの別物。にも関わらず、この二つの美術運動は中心人物の多くが重複し、そして密接な歴史的つながりがあるのです。

ここでは、両者の違いと、その関係性について、掘り下げていきたいと思います。

エドガー・ドガ《家族の肖像(ベレッリ家)》 1858-1869年 油彩/カンヴァス オルセー美術館、パリ

はじめに

印象派とポスト印象派は、どちらも19世紀後半にフランスで興った重要な美術運動です。しかしその表現や哲学には根本的な違いがあります。

印象派:光と色彩の一瞬を捉える

印象派の最大の目的は、目に映る光と色彩の瞬間的な「印象」をキャンバスに定着させることでした。彼らは、スタジオでの制作ではなく戸外に出て、刻々と変化する太陽の光や大気の効果を素早く捉えようとしました。

光と色彩の科学的探求:

アルフレッド・シスレー『ヴィルヌーヴ=ラ=ガレンヌの橋』-1872年 「もっとも印象派らしい画家」と呼ばれたシスレーらしい、外光をよく研究した作品。

印象派の画家たちは、光が物体に反射して見える色を科学的に探求しました。固有色(物体の本来の色)ではなく、光によって変化する色を重視し、パレットの上で色を混ぜず、原色を小さな筆触で並べて描くことで、見る人の網膜の上で色が混ざり合う効果(視覚混合)を狙いました。

筆触分割(ディヴィジョニスム):

クロード・モネ『睡蓮』 1906年 シカゴ美術館 水面、睡蓮、木々の影など、あらゆる事象が筆触分割で描かれている。

絵を構成する要素を細かく分割し、点や短い線で描くことで、光の揺らぎや質感を表現しました。

 

主題の多様化:

エドガー・ドガ『舞台のバレエ稽古』(1874) メトロポリタン美術館 あくびする踊り子も、踊り子を品定めする悪いおっさんも、みんな描いちゃう。それがドガ。

伝統的な歴史画や宗教画から離れ、都会の風景、戸外でのレジャー、カフェや劇場の様子など、当時の市民生活をありのままに描きました。

 

代表的な画家:

クロード・モネ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、エドガー・ドガなど

 

ポスト印象派:内面の感情と形を表現する

一方のポスト印象派は、印象派の限界に反発するようにして生まれました。印象派が重視した「客観的な視覚の記録」は、斬新でこそあったものの、一瞬の記憶に縛られるスタイルが表現の幅を狭めてしまうことに懸念を抱いたのです。そして、画家自身の主観、感情、象徴的な意味を表現することに重点を置くことで、独自の表現を広げていくこととなりました。

色彩の主観的・象徴的利用:

ゴーギャン『説教の後の幻影:ヤコブと天使の争い』(1888年)スコットランド国立美術館

ポスト印象派の画家たちは、光の忠実な再現よりも、自分の感情を表現するために色を使いました。たとえば、ポール・ゴーギャンは、感情を象徴する鮮やかな色を自由に使うことで、内面的な世界を描きました。

 

形の再構築と構造:

ポール・セザンヌ『リンゴとオレンジのある静物』(1895-1900年)オルセー美術館

印象派が軽視した形や構成を重視しました。ポール・セザンヌは、自然の背後にある幾何学的な構造を見出し、それらを再構築することで、絵画に堅固な安定感を与えようとしました。

 

感情の表現:

フィンセント=ファン・ゴッホ『星月夜』(1889年6月)ニューヨーク近代美術館 ゴッホはうねる星空に不安と葛藤を投影した。

感情や心理状態を作品に反映させることを重要視しました。フィンセント・ファン・ゴッホは、激しい筆致やうねるような線で、自身の情熱や苦悩を表現しました。

 

代表的な画家:

ポール・セザンヌ、フィンセント・ファン・ゴッホ、ポール・ゴーギャンなど

つまり、印象派が「外の世界(光と色彩の印象)を客観的に捉える」ことを目指したのに対し、ポスト印象派は「内なる世界(感情や思考)を主観的に表現する」ことを目指した、と言えます。同じ時代の空気を吸いながらも、その創作哲学は対照的と言えるでしょう。

 

印象派からポスト印象派が生まれた理由

それでは、名前や画風、時代的にも極めて近しい印象派とポスト印象派が、なぜこれほどまでに違うものになってしまったのでしょうか?

印象派の「限界」

印象派は、光と色彩の瞬間を捉えるという画期的な手法を確立しましたが、次第にその表現には限界があると感じられるようになります。

形と内面の喪失:

クロード・モネ『ウォータールー橋、霧の効果』(1903年)エルミタージュ美術館 光を追い求めて筆触分割しすぎた結果。

印象派の筆触は、光の表現には優れていましたが、物体のしっかりとした形や構造を曖昧にしてしまう傾向がありました。また、彼らが描く主題は日常の風景が中心で、画家の内面的な感情や精神性を表現する余地が少ないと見なされました。

 

商業主義の台頭:

クロード・モネ『積みわら、夏の終わり』(1891年)オルセー美術館 本作をはじめモネは25作に及ぶ積みわらの連作を手がけたが、同じく印象派のカミーユ・ピサロからも商業主義的と見なされ、批判の対象となった。

印象派の作品が市場で成功を収めるにつれて、その表現が単なる流行と化し、深みを欠くようになったという批判も生まれました。

 

ポスト印象派の「個の探求」

セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャンといったポスト印象派の画家たちは、元々印象派の技法を学んでいましたが、上記の限界を感じ取り、それぞれ独自の方向性を模索し始めました。

 

ポール・セザンヌ:

ポール・セザンヌ『3人の水浴図』プティ・バレ

印象派の「一瞬の印象」に満足せず、物体の背後にある永遠の形、構造、安定性を探求しました。彼にとって絵画は、自然の秩序を再構築する知的作業だったのです。

 

フィンセント・ファン・ゴッホ:

フィンセント=ファン・ゴッホ『夜のカフェ』(1888年9月)イェール大学美術館

光の記録ではなく、自身の感情や精神状態を絵に叩きつけるように表現しました。彼の燃えるような色彩や力強い筆致は、内面の苦悩や情熱を映し出すための手段でした。

 

ポール・ゴーギャン:

ポール・ゴーギャン『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』(18971898年)ボストン美術館

都会の文明社会から逃れ、原始的な生活の中に真実を見出そうとしました。色彩を光の再現から解放し、内面的な感情や象徴を表現する独自の言語として用いました。

 

このように、ポスト印象派の画家たちは、印象派が客観的な表現を突き詰めたからこそ、その次のステップとして、「個人の内面」や「主観的な真実」を表現することに価値を見出したわけです。

 

印象派が呼び起こしたポスト印象派への流れ

とはいえ、印象派からポスト印象派への流れには、確かな必然性がありました。

まず印象派の画家たちが、サロンが絶対的だった時代を打破し、美術アカデミーの指導に則らなくとも良い絵は描けることを証明しました。この功績があったからこそポスト印象派は個の探究を認められ、それを受け入れる美術業界の体制が生まれたと言えます。

さらにサロン絶対性の打破は、それまで「絵=サロンで商談するもの」という図式を変え、独自の展覧会やギャラリーで販売するスタイルを定着させました。その結果、サロンに代わって台頭したのが画商です。彼らはより新しい表現を実践する画家を発掘するようになると同時に、その表現をどう見れば良いかを提案する役割も果たしました。印象派のように活動も表現もまとまりのなかったポスト印象派の画家たちにとって、世間とのパイプ役となる優秀な画商の存在は不可欠だったわけです。

ポール・デュラン=リュエル 19世紀最大の画商で、印象派の評価を高めた立役者。

また印象派の成功は、絵画の目的すらも変えました。

それまで絵画に求められていたのは「物語の記録」(聖書や神話、戦争など)や「現実の忠実な再現」(肖像など)でしたが、印象派の登場により「画家自身の視覚的な体験の表現」へと大きく方向転換していきます。

奇しくも印象派が登場した19世紀後半には写真技術が普及し始めており、それらの記録や再現などの役割は完全に取って代わられる危機に瀕していました。まさに印象派は、絵画の救世主だったわけです。

これらの変化は、ポスト印象派の画家たちにとって、次の扉を開くきっかけとなりました。彼らは印象派が切り開いた道をさらに推し進め、絵画をより個人的で、内面的な表現の場と見なすようになりました。つまり、印象派が「外の世界をどう見るか」を問いかけたのに対し、ポスト印象派は「内なる世界をどう表現するか」という、さらに深い問いへと進んでいったのです。

 

ザクッと要約すると

印象派は表現対象を外に求めることで陽光の瞬間的な彩りを取り入れ、街中の風景や人々など生活感のある題材の可能性を切り拓きました。

一方のポスト印象派は、印象派の表現が「客観的な視覚の記録」に留まることに限界を感じ、画家自身の主観、感情、象徴的な意味を表現することに重点を置く表現を追求ことで、画家一人一人がそれぞれの世界観を確立し、成功していきました。

このように一見まったくの別物に感じる印象派とポスト印象派ですが、いずれも「画家自身の視覚的な体験の表現」の上に成立していることは間違いなく、さらにサロンからの脱却など、印象派の功績があったからこそのポスト印象派の成功という流れには必然性があると言えるでしょう。

 

印象派とポスト印象派の作品が見られる展覧会(9月から12月まで)

ルノワール×セザンヌ ―モダンを拓いた2人の巨匠

印象派を代表するルノワールと、ポスト印象派の父と呼ばれるセザンヌの作品を比較する展覧会です。

  • 展覧会名: ルノワール×セザンヌ ―モダンを拓いた2人の巨匠
  • 会場: 三菱一号館美術館
  • 開催期間: 2025年5月29日(木)〜2025年9月7日(日)
    • ※この展覧会は開催期間が2025年9月7日までのため、ご希望の9月以降の期間にはわずかに間に合いませんが、念のため参考情報として記載します。
  • 主な展示作品: オランジュリー美術館、オルセー美術館のコレクションより、ルノワールセザンヌの名品約50点
  • アクセス方法: JR「東京駅」丸の内南口から徒歩5分、東京メトロ千代田線「二重橋前駅」4番出口から徒歩3分

モネ 睡蓮のとき

クロード・モネの晩年の代表作「睡蓮」に焦点を当てた展覧会です。

  • 展覧会名: モネ 睡蓮のとき
  • 会場: 豊田市美術館
  • 開催期間: 2025年6月21日(土)〜2025年9月15日(月・祝)
  • 主な展示作品: クロード・モネの「睡蓮」などの作品
  • アクセス方法: 名鉄「豊田市駅」から徒歩15分、愛知環状鉄道「新豊田駅」から徒歩15分

オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語

パリのオルセー美術館から来日する、印象派のコレクションをテーマにした大規模な展覧会です。

  • 展覧会名: オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語
  • 会場: 国立西洋美術館
  • 開催期間: 2025年10月25日(土)〜2026年2月15日(日)
    • 開館時間:9:30~17:30(金・土曜日は20:00まで、入館は閉館30分前まで)
    • 休館日:月曜日(祝日の場合は開館、翌火曜日に休館)、年末年始
  • 主な展示作品: 詳細は未発表ですが、オルセー美術館の印象派コレクションから、室内の情景を描いた作品を中心に展示される予定です。
  • アクセス方法: JR上野駅「公園口」から徒歩1分、東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」から徒歩7分、京成電鉄「京成上野駅」から徒歩8分。