2026.01.05
知っておきたい馬を描いた名画7選
あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いします。
ということで、今回は古今東西、馬の名画を集めてみました。
西洋美術史を振り返ると、犬猫よりも馬を表現した美術品の方が多いように思われます。
これは犬猫などのペット文化が20世紀まであまり普及していなかったこと、馬に単なる動物の枠を超えた移動手段としての魅力が備わっていたことなどが影響していると考えられます。
つまり現代で言うところの、自動車や飛行機、電車に近い魅力を持っていたのではないでしょうか。
と言うわけで、「知っておきたい馬を描いた名画7選」です。
Contents
- 1 1.ジョージ・スタッブス「ホイッスルジャケット (Whistlejacket)」
- 2 2. ジャック=ルイ・ダヴィッド「サン=ベルナール峠を越えるナポレオン」
- 3 3. フランツ・マルク「青い馬 I (The Blue Horse I)」
- 4 4. レオナルド・ダ・ヴィンチ「スフォルツァ騎馬像のための素描」
- 5 5. テオドール・ジェリコー「エプソムの競馬 (The Derby at Epsom)」
- 6 6. アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「フェルナンド・サーカスにて (“Au cirque Fernando, l’écuyère” )」
- 7 7. ポール・ゴーギャン「 海辺の騎手たち (Horses by the Seaside)」
- 8 終わりに
1.ジョージ・スタッブス「ホイッスルジャケット (Whistlejacket)」
収蔵先: ロンドン・ナショナル・ギャラリー(イギリス)
制作年:1762年
背景を一切排除し、ほぼ等身大(約3メートル四方)のキャンバスに一頭の馬だけを描いた異色の傑作です。後ろ足で立ち上がる「レヴァード」というポーズをとるアラブ種の名馬が、黄金色の毛並みとともに圧倒的な存在感で描かれています。
実はこの絵、もともとは「馬に乗った国王(ジョージ3世)」を描く予定だったという説があります。しかし、描き上げられた馬があまりに完璧で美しかったため、背景や人物を書き加えるのをやめ、馬単体の肖像画として完成させたと言われています。
2. ジャック=ルイ・ダヴィッド「サン=ベルナール峠を越えるナポレオン」
収蔵先: ヴェルサイユ宮殿(フランス)ほか
制作年:1801年
アルプス越えをするナポレオンを描いた、世界で最も有名な歴史画の一つです。荒れ狂う風の中でいななく白馬と、冷静に指をさすナポレオンの対比が、英雄の勇ましさを強調しています。
元々この絵はナポレオンを美化するために描かれた「宣伝ポスター」のようなもので、実際には彼は白馬ではなく、もっと足腰の強い「ラバ」に乗って峠を越えたと言われています。ちなみにポール・ドラローシュがロバ(ラバ)版の絵も描いており、たびたび理想と現実を示すネットミームとして並べられています。また、ナポレオン本人はモデルになるのを嫌がったため、画家の息子を身代わりにしてポーズをとらせたという逸話も残っています。

3. フランツ・マルク「青い馬 I (The Blue Horse I)」
収蔵先: レンバッハハウス美術館(ドイツ)
制作年:1911年
絵の特徴: 20世紀ドイツ表現主義を代表する作品です。現実には存在しない「青い色」で馬を描くことで、動物の持つ純粋さや精神性を表現しています。丸みを帯びたフォルムと鮮やかな色彩が、静かで神秘的な雰囲気を醸し出しています。
作者のマルクは、独自の色彩理論を持っており、彼にとって「青」は「男性的な原理、厳格さ、そして精神的なもの」を象徴する色でした。人間よりも動物の方がより神に近い純粋な存在だと信じていたマルクは、馬を通じて理想の世界を描こうとしたわけです。
4. レオナルド・ダ・ヴィンチ「スフォルツァ騎馬像のための素描」
収蔵先: ウィンザー城・王室コレクション(イギリス)
制作年:1488年ごろ
絵の特徴: ミラノ公爵ルドヴィーコ・スフォルツァのために計画された、世界最大の騎馬像のための準備デッサンです。解剖学を極めたダ・ヴィンチらしく、馬の筋肉、血管、骨格の動きが完璧な精度で捉えられています。元々、騎馬像のためのデッサンなので、さまざまな関連作品が多数現存しており、ここに挙げる作品はその代表的な1枚です。
この計画では約7メートルもの巨大なブロンズ像が作られる予定でしたが、戦争によって鋳造用の銅が武器(大砲)に転用されてしまい、ついに完成することはありませんでした。準備された粘土の原型も、侵攻してきた兵士たちの射撃の的にされて破壊されてしまったという、悲劇的なエピソードを秘めた作品です。
5. テオドール・ジェリコー「エプソムの競馬 (The Derby at Epsom)」
収蔵先: ルーヴル美術館(フランス)
制作年:1821年
絵の特徴: 降り出しそうな空の下、全速力で駆ける馬たちを描いた傑作です。馬が前後の足を完全に伸ばして宙に浮く「フライング・ギャロップ」という姿勢で描かれており、当時の人々が感じていた「馬の速さ」を視覚化したドラマチックな構図が特徴です。
ジェリコーは馬を愛するあまり、厩舎に寝泊まりして馬の解剖まで行うほどでした。しかし、この絵で描かれた「前後足をピンと伸ばして走る姿」は、後のカメラ技術(連続写真)によって「実際にはありえないポーズ」であることが判明します。それでもなお、この絵が放つ圧倒的なスピード感は、現代の私たちが写真を見るよりも強く「速さ」を感じさせます。なおジェリコーはフランスロマン主義の先駆けであり、ドラクロワらに多大な影響をもたらしたものの、わずか32歳で病死した悲劇の画家でもあります。
6. アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック「フェルナンド・サーカスにて (“Au cirque Fernando, l’écuyère” )」
収蔵先: シカゴ美術館(アメリカ)
制作年:1888年
絵の特徴: サーカス団の馬を描いたロートレックによる作品です。曲芸や見せ物に使われるサーカスの馬ながら、鋭角なラインで動的な造形を捉えており、調教師やパフォーマーの表情にも緊張感が伺えます。素早い筆致と独特の構図で、華やかなショーに紛れたリアルな一瞬を切り取っています。
ロートレックはポスター画で有名ですが、実は幼少期から馬が大好きで、スケッチブックを馬の絵で埋め尽くすほどでした。名門貴族の出身だった彼は、伝統的な「馬の肖像画」の教育を受けつつも、近代化する街角で働く馬たちの姿に美しさを見出し、独自のモダンなスタイルで描き残しました。
7. ポール・ゴーギャン「 海辺の騎手たち (Horses by the Seaside)」
収蔵先: 個人蔵
制作年:1902年
絵の特徴: ポスト印象派の巨匠ゴーギャンが、タヒチで描いた作品の一つです。クルワソニスムのスタイルで平面的かつ力強い線と情緒的な色彩選択が印象的な絵となっています。
ゴーギャンは文明社会を嫌い、タヒチへと向かいました。馬は本来、タヒチなどの南国には生息しない動物です。つまり、馬は西洋から侵入した遺物であり、文明が、静かに、無感情に、自然の上を通過していく様子を表現したと考えられています。ゴーギャンは、ロートレックやジェリコーらのように馬を愛してはいませんでした。それだけに、本作が一際異彩を放っているわけです。
終わりに
いかがだったでしょうか?
馬というテーマでも多様な視点や表現があることを知っていただけたのではないでしょうか。
他にもエドガー・ドガなど馬を愛した芸術家は非常に多く、ぜひこれをきっかけに馬の芸術作品に興味を深めてもらえれば幸いです。