2025.12.05
【取材記】21世紀アート ボーダレス展 畑野昭子・岩本一子・山田由岐子——3作家の表現が交差する場所——
12月3日、弊社代表(クリエイト・アイエムエス株式会社)安広が、六本木・国立新美術館で開催中の「21世紀アート ボーダレス展」を取材した。会場は展示室1A・1B、会期は2025年11月27日(木)〜12月6日(土)。10:00〜18:00(最終入場17:30)、入場無料で平日にも関わらず多くの来場者でにぎわいを見せていた。
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「Relational」を掲げる21世紀アート ボーダレス展
21世紀アート ボーダレス展は、「ボーダレス=境界を越える」をキーワードに、絵画、彫刻、写真、工芸、デザインなど、多様な表現を一堂に集める総合美術展として企画されている。2025年のテーマは「Relational(リレーショナル)」。作品単体の完成度だけでなく、「関係性」という視点から、作家同士、ジャンル同士、そして作品と鑑賞者との間にどのような対話が生まれるかが重視されている。
その意味で、コンテンポラリーキルトのエリアは、布・色・時間・記憶といったさまざまな要素を媒介に、人と人、人と場所を繋ぐハブのような役割を果たしていた。テキスタイル作品が、単なるクラフトの枠を軽々と越え、現代アートの文脈の中に力強く立ち上がっているのが、この展覧会ならではの見どころだと言える。
ボーダーレスを体現するコンテンポラリーキルト——畑野昭子先生

入口正面でまず視線を奪われたのは、コンテンポラリーキルトアーティスト・畑野昭子先生の大作インスタレーション。
広い壁面を彩る布の連なりは、色彩と構成のリズムによって空間そのものを変容させていた。手仕事の温度感と現代的な造形感覚の交差が圧巻で、展覧会タイトル「ボーダーレス」を象徴する存在感を放っている。
同エリアには畑野先生の門下生による作品も展示され、キルトという共通言語の上にそれぞれの個性と挑戦が重なり合う。布の柔らかさを活かしながら現代美術として成立する表現が多く、来場者が足を止めて見入る姿が印象的だった。
さらに畑野先生は、IMSの海外芸術交流企画にも継続的に参加しており、2023年はマルタ共和国、2024年にはベルリン、そして2025年はパリと国際的な活動を続けている。異文化との出会いを重ねつつも、「布を通して人と人を結ぶ」という一貫した姿勢が作品に力強く息づいていた。
今回のボーダレス展でも、その国際的な経験が反映されたような伸びやかさとスケール感が作品から伝わってくる。伝統的なキルトのイメージにとどまらず、抽象絵画や立体作品とも共鳴しうる造形として提示されている点は、海外展示を共にしてきた立場から見ても印象的だった。
シャドーボックスの新たな可能性——岩本一子先生

会場内を進むと、ブース展示として紹介されていたのが岩本一子先生の作品である。岩本先生は、原画制作、版画制作を経て、シャドーボックス作品を一貫して手がけてきた実力派。モチーフを何層にも重ねて構成されるシャドーボックスは、光の当たり方によって陰影が変化し、立体感と物語性が同時に立ち上がる表現だ。
今年はパリでの作品出品と現地訪問も実現し、その国際的な活動の一端が、このブースからも感じられる。細部まで緻密に作り込まれた作品は、平面と立体、絵画とオブジェ、そのいずれとも言い切れない独自の領域を切り開いており、「ジャンルの境界」を軽やかに飛び越えるボーダレス展の精神と響き合っていた。
文部科学大臣賞に輝いた作家——山田由岐子先生

入口ショーケースに展示されていたのは、山田由岐子先生の作品だ。数多くの出品作の中から、全ジャンルを通して1点だけ選ばれる文部科学大臣賞に輝いた作品であり、その存在感はショーケース越しでも強く伝わってくる。素材も構成も洗練されながら、見る人の感情に静かに、しかし確かに触れてくるような力を持っている。
山田先生は、この受賞とともに、10年越しの思いを胸にマルタへの参加を予定しているという。作品とともに海を越え、新たな土地でどのような出会いが生まれるのか。日本発の表現が、地中海の光や歴史を持つマルタという場と交差することによって、次の物語が紡がれていく。ボーダレス展での受賞は、その物語の重要な一歩となった。
展覧会を通じて見えてきたこと
今回の取材で印象的だったのは、「ボーダレス」というテーマが単なる合言葉ではなく、作家の歩みや国際交流、作品の在り方そのものと深く結びついていた点だ。
畑野昭子先生のコンテンポラリーキルト、岩本一子先生のシャドーボックス、山田由岐子先生の受賞作——異なるジャンルが共鳴し合い、新たな関係性を生み出す現場に立ち会えた。
国立新美術館で、多様な層に開かれた本展は、作家だけでなく観客にも「自分の中の境界」を考えさせる契機となるだろう。
作品の前で立ち止まり、異なる背景を持つ表現と出会う。その積み重ねこそ、展覧会テーマ「Relational(関係性)」の核心であると強く感じる機会となっていた。
今回の記事では、上記の3名の作家に焦点を当てて紹介したが、会場にはほかにも多くの魅力的な作家の方々が参加しており、それぞれの作品が独自の光を放っていた。
中には、IMSの海外芸術交流企画でも活躍されている先生方の姿もあり、国境やジャンルを越えて挑戦を続ける作家たちの気迫と温度が、会場全体に満ちている。
ぜひ会場で、作品と向き合う時間の中で「境界を越える」という言葉の本当の意味を感じていただきたい。