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2020.08.20

【展覧会レビュー】きたれ、バウハウス−造形教育の基礎−

「開校100年 きたれ、バウハウス −造形教育の基礎−」パンフレット

「展覧会紹介」

伝説的に語られているバウハウスの展覧会。バウハウスの開校100年を記念して開かれた展覧会。昨年新潟から展覧会が始まっていたんですが、国内数カ所を回っていよいよ東京へ巡回してきました!建築、デザイン、アートに関心のある方にとっては待望の展覧会かと思います。

ただもっと大々的に展覧会が開かれても良かったと感じるのは私だけではないかと思います。100歩譲って日本国内なら、仕方がないかもしれないですが、衝撃だったのは今年の1月にベルリンへ行った時です。これも、半分、バウハウスを見に行ったような物でしたが、なんとバウハウス閉校の地ベルリンのバウハウスアーカイブが工事中だったんです。

バウハウスに対しての世間の反応はこんなものなのかと落胆した一件でした。というのも、バウハウスって建築やデザインを始め芸術に及ぼした影響が計り知れないのは周知の通りです。バウハウス無くして現在のデザインも建築も現代アートも無かったかもしれない。それくらい言っても大袈裟じゃない。それだけに、現地ベルリンもさぞかし盛り上がっているんだろうなと思ってたんで、なんか肩透かしを食らったようでした。

それは置いといて展覧会「開校100年 きたれ、バウハウス−造形教育の基礎−」自体はと100周年記念らしいもので非常によかったです。

ちなみにバウハウス(1919-1933)というのは、かつてドイツにあった造形教育の学校です。活動期間はたった14年と短かったんですが、その理念や革新性は、今なおデザインや建築に関心を抱く多くの人を魅了しています。

特に多くの人を引きつける理由は講師陣と教育理念。この2点に集約されます。まず講師陣ですが、カンディンスキー 、パウル·クレー、ヨハネス·イッテンなど、当時トップクラスの芸術家が勢揃いしていました。こうした名だたる芸術家が教鞭を取って理論の展開や実践が行われていた場所がバウハウスという造形学校です。そしてもうひとつの特徴的な点、教育理念ですが今回の展覧会では、その教育がテーマになっているんです。

私もこのバウハウスに魅了された一人として、「開校100年 きたれ、バウハウス−造形教育の基礎−」展に行って参りました。今回のブログではこの展覧会の見どころなどを伝えていきたいと思います。

「展覧会のテーマ」

上記のようにこの展覧会のテーマは教育です。特に基礎課程教育に着目をした展示となっていました。知らない方にはピンと来ないかもしれませんが、この基礎課程教育はバウハウスの指導の中でも最も重要なものになっています。(バウハウスに入学した人が基本的に全員受けるという意味から)

教育課程図

教育課程図 日本語

 

これはバウハウス教育課程を表した有名な図です。展覧会場に入ってすぐにこれが宣言文と一緒に展示されていました。この図は外側から内側に向かっていく構図となっています。

「すべての造形活動の最終目標は建築である」という宣言文から出発したバウハウスですがこれは基礎課程を修了した人が専門的な工房に入り最終的に建築に向かっていくということを表しています。今回の展覧会では特にこの基礎課程教育に多くの焦点が当てられて五つのテーマ

「学校としてのバウハウス」、「バウハウスの教育」、「工房教育と成果」、「『総合』の位相」、「バウハウスの日本人学生」に分けて展示がされていました。

会場は三階と二階で構成されていて、大雑把に三階が基礎課程の展示、二階が工房の展示になっています。

三階では、基礎課程でどんなことが行われていたかを見ることができます。

最初に触れましたが、マイスター(教授)たちが全員すごいメンバーなので、教育内容もマイスターによって全然違っています。この三階では、そのマイスターたちがそれぞれにどんな指導をしていたか知ることができます。例えばカンディンスキーの場合はこんなこと、パウル·クレーの場合はこう。と言ったような形です。バウハウスの教育については、専門書もたくさん出ているんですが、正直言って理解するのは簡単じゃありません。でも今回の展示内容一見変わったように目見える授業でも分かりやすく解説されているので非常にわかりやすいと感じました。

二階は基礎課程を修了した人が向かう先、工房教育に関してのフロアです。各工房の中で製作された製品も多く展示されています。バウハウスの中心を成していた金属工房、家具工房の作品が特に多く、そのほかにも印刷や陶器、舞台など全工房の成果にもしっかりと焦点が当てられていて、全体で300点ほど展示がされています。この工房の作品を見た後に建築のブースを見るという流れですが、この教育課程図の構図に沿った展覧会になっていました。もちろんそれだけではなく、1923年に開催されてバウハウスが世界的に認知されることとなった展覧会についてだったり、バウハウスに在籍していた日本人の作品なども展示されています。

「みどころ」

個人的にバウハウスへの思い入れが強いので、全てがみどころ!というのが正直な気持ちです。でも強いてあげるとすれば、体験入学ができるところが非常にいいです。今この記事を見てくださっている方はオープンキャンパスっていかれたことありますか??今回の展覧会はオープンキャンパスそのものです。私達の学校はこんなところで、こんな教授がいて、こんなすごい講義をしている教授がいるんです。ちょっとのぞいていきますか??みたいな感じです。

展覧会を見ていると「自分だったらこの人のもとで勉強をしてみたいな」というように見てしまいます。そう言った意味では自分が作品の中に入り込める参加型の展覧会に近いものがあると感じました。実際に参加型の様な今風の展示スペースもあります。ここだけは写真撮影ができる様になっています。ただお客さんの数がかなり多いので、ここで記念撮影をするみたいな余裕はあんまりなかったです。

これは初期のバウハウス教育の多くを担っていたイッテンの演習の一つですが、光に手をかざして影の中に生まれる色彩の変化を体感できます。時を経て授業の演習に参加できた気がして感慨深かったです。

今回の展覧会の大部分が「機能主義的なバウハウス像を作り上げていったのがこんな教育だった。」といった感じで展示されている様な印象を受けました。

W.グロピウス デッサウ校舎

私たちがバウハウスといえば、このグロピウスが建てた校舎(デッサウ)を反射的に思い浮かべるようにこの機能主義的イメージが念頭にあることを前提として展覧会が進められていると感じました。

個人的にはバウハウスの初期の頃にあらわれる表現主義的な性格とか転換期となっていた1923年とかの出来事が好きなのでそこにも多少なりとも焦点を当てて欲しかったと思ってしまいました。それと展示されていた様々な授業が同じ時間軸で行われていたと錯覚してしまう方もいるのかなって感じたのでそこに関してだけは注意していただく必要もあるのと思います。

しかしバウハウスに関心を持つ人たちの期待に応える展覧会であるのは間違い無いです。これは企画した学芸員の方の凄さもあるんですけど、100年くらい前に行われていることなのに今この授業を受けたとしても新鮮さを感じられるんだろうなって思えるところがバウハウスの素晴らしい部分です。ちなみに私は展覧会を一通り見た後モホリ=ナギの授業を受けてみたいと思いました。

「グッズ」

さすがバウハウスのグッズって感じで、どれもデザインがいいです。カタログ、サコッシュ、Tシャツ(クレーと1923のバウハウス展ポスターの、カンディンスキー、ナギ)、クリアファイル、測量帳を始めほかにも惹かれるグッズで溢れていました。 図録はバウハウスのことが分かりやすくまとめられていて、厚めなのになぜか見た目よりもはるかに軽いのでおすすめです。

グッズのコーナーも含めて大体1時間半くらいで見られました。ちなみにチケットはコロナ対策で店頭で買えないのでネットで買う必要があります。私が足を運んだのは、開催されて最初の週末だったためか、入場者数はかなり多く感じました。事前予約で入場者数はコントロールされているので、おそらくその限度ギリギリの人数が来ていたのかなと思います。もし平日に行ける方は、ぜひ平日にぜひいくことをお勧めします。その方が集中できるし、コロナの感染が不安な方も、安心して鑑賞できると思います。

以上が展覧会レビューです。

 

最後になりますが改めて言っておきたい

もっと大きな規模で開催してほしい!!実際に展覧会に足を運んでみて、会場が人で溢れていたというのはやはりこの展覧会を期待していた人が多いからだと思うんです。バウハウスの活動はたった14年間での出来事でしたが、その中で行われていたこと全てが興味をそそるもので、時代背景やマイスターの立ち位置、年代を追って変わっていった理念の性格、構成主義的なデザインに向かう紆余曲折などどの切り口でバウハウスを追ってみても物語があります。バウハウスの工房の中で作られたものもそうですが、きっとバウハウスが好きな方は表面的なもの以上に、この中にある物語が好きなんだと思います。

というわけで、もっと多くのそしてもっと大きな展覧会が開かれることを祈って、今後記事を終えたいと思います。ありがとうございました。

 

展覧会情報

https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202006_bauhaus.html

「開校100年 きたれ、バウハウス−造形教育の基礎−」

7月17日(金) – 9月6日(日)

休館日
月曜日[8月10日、8月31日は開館]
開館時間
10:00 – 18:00
※金曜日は20:00まで開館
※入館は閉館の30分前まで

入場料

      一般 1,200円 高校・大学生 1,000円

  • 中学生以下無料
  • 障がい者手帳等お持ちの方は入館料が100円引(介添者1名は無料)
  • 混雑回避のため、本展では100円と200円の割引とクーポンの使用をすべて中止とさせていただきます
  • 年間パスポートの同伴者割引も申し訳ありませんが中止といたします
  • 株主サービス券をご提示の方は受付で当日券をご購入ください(事前予約不要)
  • 以下に該当する方は直接美術館へお越しください(事前予約不要)
    対象:中学生以下、招待券・招待ハガキ・年間パスポート・5館共通券をお持ちの方

(著:クリエイトアイエムエス株式会社 編集部 畑山)