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2021.10.27

【第41回】長岡美和子 個展 中原中也「山羊の歌」より(10月24日〜10月30日)

淀みない筆が出会った早逝の天才詩人、新たな創作境地を切り拓いた41回目の現在地。

書家、日本画家の長岡美和子の個展が、滝不動スタジオM(千葉県船橋市)にて開催されている。

長岡美和子(1945- )は、船橋市在住の書家・日本画家。近畿大学理工学部在学中より、前衛書道の先駆者として知られる上田桑鳩とその弟子の酒井葩雪に師事し、酒井との出会いをきっかけとして日本画も始めることとなる。「書道は感情芸術である」という上田の教えを受け継ぎ、感情芸術としての書を追求し続けることで、師と同じく前衛書道の世界で才能を開花させる。もちろんそれは日本画を制作する上での基盤ともなった。活動は日本国内に留まらず海外にも及び、国外での個展や大統領が来場する国際展等で揮毫を披露するなど各国で高い評価を得ている。
滝不動スタジオMでの個展は、毎年一度も欠かさず開催されている作家にとってのライフワークであり、今回で41回目を迎えるに至った。会場には今年の9月にカナダで開催された「日本ケベック友好展」にも出品された「紅」「蜜」をはじめ、書や日本画などの作品を展示。また、長岡の代名詞とも言える一字書シリーズからは、中原中也の『山羊の歌』から着想を得た「黝(あおぐろい)」「頑(かたくな)」「鈍(にび)」などの作品が並んだ。
この一字書シリーズは、長岡が文学作品から着想を得て、浮かんだ一字を書すという独自の取り組みである。いわく『文学作品を読んでいると字や言葉が浮かんでくる』そうで、作品上に現れるのはたった一文字だがその背景には文学から汲み取った広大な想像力が込められている。文学作品を感情芸術に昇華させ、一字書の境地を切り拓いている。
今回、テーマとして選んだのは、中原中也の代表作『山羊の歌』。中原中也は日本を代表する詩人の一人。活動期間は大正末期から昭和初期にかけてのわずか10余年だが、没後の研究で大きく評価を高めた。「山羊の歌」は中也の第一詩集であり、生前に出版された唯一の創作刊行物である。

新型コロナウイルスの影響が未だ暗い影を落とす中で開催された本展。短い人生の中で暗中模索するかのように詩文学の世界を生き抜いた中原中也の存在が、書家・長岡美和子の中で現代を生きる人々の姿に投影されたのではないだろうか。

10月25日 会場にて