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2020.09.04

元ゾゾ社長前澤氏が23億の絵画を購入 『クリフォード・スティル』って誰??

【美術解説】元ゾゾ社長前澤氏が23億の絵画を購入 『クリフォード・スティル』って誰??

去年くらいに前澤さんがこの作品を購入して話題になりましたね、「シンソウ坂上」で放送されえていたので見た方もおおいんじゃないですか??これは前澤さんがサザビーズという世界最大のオークション会社の競売に参加して絵画を落札する一部始終が取り上げれられていました。 

そのときこの作品を落札していましたが額にしてなんと232100万円、手数料35100万円が加わり、最終的に約27億円で買い上げていました。

これは戦後のアメリカ美術の最重要人物の一人クリフォード・スティルの作品です。きっとこの前澤さんの一件でクリフォード・スティルの名前を知った方もいるんじゃないかなと思います。それにしてもこの何を描いているか分からない作品が何でこんなに高いの?そんなに美術的価値があるものなの??って思った方もいたはずです。

今回の記事では前澤さんが購入した作品の作家、クリフォード・スティルの活動について解説して参ります。

「クリフォード・スティルとは??」

 

そもそも日本でクリフォードスティルの知名度っていうのはあまり高くないです、知っている人も一部に限られるのが現状です。この作家は戦後アメリカ美術の最重要人物ですが抽象表現主義といえば条件反射的にジャクソン・ポロックを思い浮かべてしまいます。ですがスティルがマイナーとかではなく、むしろ1950年代に盛んになったアメリカ前衛的な芸術を率いた人物です。

クリフォード・スティルはアメリカの画家で、第二次世界大戦直後の絵画界に新たな印象を与えた抽象表現主義の第一世代の指導者的存在。彼の作風は前澤さんが買った作品のような鋭利な形をした抽象画でギザギザした印象の作品が特徴でこういった彼の作品はカラーフィールドペインティングと言われます。これは色面絵画と訳されて、何が描かれているか分かるような絵柄を描いたりはせず、キャンバス全体を大きな色の面で塗るというジャンルの絵画です。逆に何かをイメージさせるようなものを描いているわけではないのにスティルの作品は23億で購入されました。

抽象表現主義

スティルの作品をお話する前に、ここで抽象表現主義についてをお伝えします。

抽象表現主義というのは、簡単に言うと近代美術の中心地をパリからニューヨークへの転換を決定づけた芸術界の流れの一つ。「ニューヨーク・スクール」とも呼ばれ、1940年代から50年代にかけて世界に知られるようになりました。ただ、この説明が正しいかと言えば、必ずしもそうとは言えないのです。というのもアメリカの抽象表現主義は、意図的に結成された集団、運動ではないためです。別に彼らがこれを名乗ったわけではなく、メディアや批評家が大まかな共通性のある芸術家たちをそう呼ぶようになっただけなのです。一応平面性や画面のスケール感などが共通点と言われますが、一括りにするのさえ難しい。それほど抽象表現主義作家の作風は多様です。

それと、抽象表現主義に分類される芸術家は基本的に精神的な問題を抱えてる人が多いんです。最期が自殺だったり、自殺とも取れるような事故死だったり。スティルはというと芸術界と距離をとって、最終的に田舎に引きこもってしまいました。でも当時の世界情勢を考えると、彼らがそうなってしまったのは、ある意味仕方ない部分があるのかなとも思います。1940年代と言えば、もちろん第二次世界大戦の真っ只中でヨーロッパの名だたる芸術家達は戦火を逃れ、こぞってアメリカに亡命して来ました。その結果、アメリカの芸術界は、いろんなバックボーンのある芸術スタイルがごちゃ混ぜになって、完全にカオスな状態になってしまったんです。その歴史的背景と急激なトレンドの変化に翻弄されて、それでもそれを超えて自分の芸術を作り出したのがこの抽象表現主義の芸術家達です。

スティルはヨーロッパの美術がアメリカで広まっていくのを見て「伝統の容認を私は拒否する。伝統への敬意は死の賛美である」という言葉を残したほどヨーロッパ芸術の伝統(キュビスムやシュルレアリスムなど)を拒絶しています。ただこの言葉通り、ヨーロッパ的な絵画を真っ先に超えて今までのレールにはない、アメリカ的な固有の芸術を示したのがスティルです。1950年代は自分の作風を確立した抽象表現主義の芸術家が多かったんですが、スティルは1944年にはすでに自身の作風を築いていました。この時、同時に壁画並みに大きな作品を制作する事の意義も示しています。そのためスティルは、抽象表現主義の中で「最も重要な人物」と位置付けられています。

作風

そんなスティルが到達した作風がこれ。荒削りで乾いた輪郭のギザギザした抽象画です。1945年以降、スティルは一貫してこの作風で描いています。前澤さんが購入したこの作品も1946年に描かれたもので、スティルが注目を集めるようになっていた頃のものです。

非対称に置かれる色の面は下塗りと絡み合っていて、どっちが上か下かみたいなものはありません。この鋭利な面は、基本的にパレットナイフを使って塗られていました。この作品にもあるように、ほとんどの作品に共通していますが人工的な色が特徴です。逆に自然を連想させるような色はほとんど使っていません。これもアメリカ的な芸術を示した一つの特徴に数えられます。マティスが用いた色彩、ピカソの形を捉える視点、シュルレアリスムが用いた有機的な抽象の形。スティルの作品はこのいずれにも当てはまりません。まさに「伝統の容認を私は拒否する」という言葉どおりのスタイルではないでしょうか。それに、この引っ掻き傷の力強さは、スティル自身の意志の強さが現れているように思えます。

「untitled」1974

いち早く先進的な作風を示したスティルは、抽象表現主義の指導的な立場だったと言われています。しかし一方で孤独だったことも知られていて、芸術仲間たちとも群れる事はなかった人物です。そして、1950年代になると、売れっ子だったにもかかわらず、スティルは芸術界からは距離を置き始めます。1960年代には作品の発表すらしなくなってしまい、完全に表舞台から消えてしまいました。そういうわけで、スティルが活躍したのは1940年代中盤から1950年代までの、ほんのわずかな期間です。

なので美術市場に出回っている彼の作品はごくわずかです。人生のうちでスティルは2300点の作品を制作されたとされますが、出回っているのはそのうちのたった6%だと言われています。戦後アメリカ美術の重要人物であるにも関わらず、作品が少ない。価格が異常に高くなるのも、当然と言えば当然ですよね。

ところで2300点のうち、他の94%の作品はどこに行ったんでしょう? 実はスティルの遺言で、(アメリカの)コロラド州デンバーにあるスティル美術館に収蔵されています。残念ながら日本でスティルの作品を収蔵している美術館もないし、企画展も開催されたことはありません。なのでスティルの作品を見たいと思ったら、ここにいくしかないです。

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アメリカに訪れた際は必見の美術館なのでぜひ足をお運びください。