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2020.10.30

長岡美和子 節目の第40回記念個展を開催

文学に在る感情芸術の形象を探求する

書家、日本画家の長岡美和子の個展が、滝不動スタジオM(千葉県船橋市)にて開催された。

長岡美和子(1945- )は、船橋市在住の書家。近年は日本画家としても活躍している。近畿大学理工学部在学中より、前衛書道の先駆者として知られる上田桑鳩とその弟子の酒井葩雪に師事し、酒井との出会いをきっかけとして日本画も始めることとなる。「書道は感情芸術である」という上田の教えを受け継ぎ、感情芸術としての書を追求し続けることで、師と同じく前衛書道の世界で才能を開花させる。もちろんそれは日本画を制作する上での基盤ともなった。活動は日本国内に留まらず海外にも及び、国外での個展や大統領が来場する国際展等で揮毫を披露するなど各国で高い評価を得ている。

今回の個展は、長岡にとって記念すべき40回目の節目を飾る記念展である。会場には昨年の11月、日本カナダ修好90周年を記念して開催された「日本ケベック友好展」において揮毫を行い好評を博した「愛」をはじめ、書や日本画など合わせて30点近い作品を展示。また、ライフワークとして制作する一字書シリーズからは、『堕落論』『続堕落論』から着想を得た「夢」「嘘」「戦」「量」などの作品が並んだ。

この一字書シリーズは、長岡が文学作品から着想を得て、浮かんだ一字を書すという独自の取り組みである。いわく『文学作品を読んでいると字や言葉が浮かんでくる』そうで、作品上に現れるのはたった一文字だがその背景には文学から汲み取った広大な想像力が込められている。文学作品を感情芸術に昇華させ、一字書の境地を切り拓いているのだ。

 今回、テーマとして選んだのは、坂口安吾の代表作『堕落論』『続堕落論』。坂口安吾は、日本の小説家、評論家、随筆家で、昭和の戦前、戦後にかけて活躍した近現代日本文学を代表する作家の一人である。坂口は「堕落論」の中で第二次世界大戦直後の日本社会の倫理観を観察し、戦時中の体験を踏まえながら、当時の人々に生きる指標を示した。

新型コロナウイルスが猛威を振るう中で開催された本展。恐らく「堕落論」「続堕落論」がテーマとなったのは偶然ではないだろう。坂口が戦後、新たな価値観を生むための提言をしたように長岡は「堕落論」「続堕落論」から着想を得た作品を通して、新たな社会のあり方が求められる現在そして未来に向けての提言を行ったのではないだろうか。

長岡先生と「愛の作品」
墨象「綴(つづる)」
「日本ケベック友好展」で揮毫を行う長岡先生