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2021.01.22

カナダ初の芸術運動「グループ・オブ・セブン」

20世紀前半はさまざまな芸術の形が生まれ、多くの新しい芸術の様式が生まれた時代として美術史上最も留意すべき時代です。この時代には新しい表現方法、美術に対しての新しい解釈が同時多発的に世界各国で生まれ、それらは現代芸術の基盤となっているものも多くあります。

その時代の代表的な美術運動はフォービスム、キュビスム、シュルレアリスム(パリ)、ウィーン分離派(オーストリア)、アーツアンドクラフツ(イギリス)、ドイツ表現主義(ドイツ)、ロシア構成主義(ロシア)、デ・スティル(オランダ)、ダダ(スイス)などでしょう。

ここまで芸術運動が活発化した要因はさまざまにありますが、その大きな一つの理由として「時代の節目」を迎えていたことが考えられます。芸術家たちは、まだ見ぬ20世紀という新しい時代に相応しい新しい芸術の表現や解釈を求めました。これらは美術史に関しての書籍では多く触れられている美術運動ですが、上記の美術運動以外でも美術運動が各国で展開されていました。

そこで今回は、カナダの芸術運動に注目したいと思います。

 

今回解説させていただくのは「グループ・オブ・セブン」(1920ー1933)。20世紀前半、カナダで起こった芸術運動です。この芸術運動はカナダ内で初めて起こった国民芸術運動であり、カナダ固有の芸術の創造を目指し集められたモダニズム集団でした。メンバーはフランクリン・カーマイケルローレン・ハリスA .Y .ジャクソンフランク・ジョンストンアーサー・リズマー、J.E.H.マクドナルドフレデリック・バーリーから構成されます。グループオブセブンの由来は同じ意思のもとに集まったメンバーが七人だったことを総称して名付けられたものです。その意思となったものは「カナダ芸術のアイデンティティの形成」でした。

本記事では、グループ・オブ・セブンが結成されるに至った時代背景と、グループ・オブ・セブンの特徴について簡単な解説をしてきたいと思います。

時代背景

グループ・オブ・セブン結成における背景には、カナダの歴史が大きく関わっています。というものカナダという国は、海外から文化を取り込むことで発展してきたからです。カナダは先住民によって築かれた時代、フランスとイギリスの植民地としての時代、アメリカ移民の大規模な受け入れを経て独立した時代、といった様々な時代を経て、現在に至ります。現在も英語とフランス語の二言語が公用語となっているように、今なおカナダの文化には海外から流れてきた文化が色濃く表れています。このカナダの国としての歴史は、19世紀以前のカナダ美術史にも大きく反映されました。それは、絵画が主にイギリスとフランスから持ち込まれた文化の一つであったということです。そのためカナダの芸術は西洋美術に倣う形で発展をし、またアカデミックな芸術が好まれていたため国固有のスタイルを見出せずにいました。しかし20世紀になり各国で新しい芸術の形が生まれ始めると、カナダの美術にも徐々に変化が現れるようになります。それはまさに西洋美術の模倣でしかないカナダ芸術のあり方に対しての違和感であり、グループ結束の大きな原動力となったとされています。

グループオブセブンのメンバーたち

グループ・オブ・セブンの特徴

新たな芸術の創造を志して集まった芸術家たちは、1920年にモントリオールでグループ・オブ・セブンを結成し、33年の解散までにその活動はカナダに広く認知され、カナダで初めての国民芸術運動とも言われるまでになりました。そのためカナダ史上もっとも重要なアーティストグループとも言われます。彼らは一貫してカナダの風景を主題とし、特に荒野をテーマにした作品を数多く残しました。グループ・オブ・セブンの出現以前はカナダ画壇の芸術家たちにとってカナダの荒野はあまりにも険しく、そして荒々しいため、絵にすることはできないと考えられていたようです。しかしメンバーたちは意図的に荒野を主題に選び、印象派やフォービスムを彷彿とさせる近代的な色彩を駆使して制作に励みました。その結果、むしろカナダの自然の雄大さ、力強さが表現され、これまでのイギリスやフランスに無い独自の世界観が誕生したのです。アカデミックな芸術の意向が強かったカナダにおいて、彼らの出現はセンセーションを巻き起こしたに違いありません。

「Vimy Ridge from Souchez Valley」1917
「RMS Olympic in dazzle at Pier 2 in Halifax, Nova Scotia」 1919

カナダ内でひとつの美術運動が広く認知されたのも、フロントマン的存在だったローレン・S・ハリス、カナダの一地域に限定されていたスタイルを広く他都市に伝播させたA.Y.ジャクソン、近代的な美術教育を行なったアーサー・リズマーといったメンバーの功績があったからです。またグループのメンバーではないもののグループ・オブ・セブンの一部のメンバーと親交がありカナダの芸術的精神と言われるトム・トムソンの影響力も見逃せません。彼らは西洋美術の因習、そして既成概念を打ち破ることでカナダにしかない芸術表現を図りました。この運動をきっかけとし、以降カナダ国内では芸術の近代化が活発化していくこととなります。

カナダの美術の中で見えるものだけでなく作品の中にカナダの精神的なものを描くという考えはこの時初めて見られた解釈です。そこにグループ・オブ・セブンの大きな功績があり、カナダモダンの始まりを見ることができるのです。