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2021.02.05

日本で見られる西洋近代絵画の名作5選

明治時代に西洋諸国から日本にもたらされた西洋絵画。それ以降日本では、西洋絵画––––いわゆる洋画は日本中で急速に広まりをみせ、現在では多くのアートファンを魅了しています。その日本における洋画の発展の背景には、さまざまなコレクターやパトロンの存在がありました。今日、西洋絵画の名作を日本で鑑賞できるのも、彼らの努力の賜物と言えるでしょう。今や海外でも「日本は世界的名画に出会える場所」として認知されているのですが、肝心の日本人がその恩恵に預かっていることに気づいていないように思われます。
現在、新型コロナウイルスの感染拡大によって、海外で西洋美術に触れることはほぼ不可能となっています。しかしこのような状況の今こそ、日本にある名作に触れてみてはいかがでしょうか。そこで今回は日本国内で見ることのできる西洋近代絵画の名作を紹介していきたいと思います。

【1】アンリ・マティス「赤い室内の緑衣の女」1947 ひろしま美術館

この作品は日本で5点ほど収蔵されている中の一点「赤い室内の緑衣の女」です。この作品はフランス近代絵画の名作を多数所蔵している「ひろしま美術館」で見ることができます。

20世紀最も革新的な画家の一人であるマティス(1869-1954)は、色彩によって絵画の歴史を変えた「フォービスムの旗手」です。本作はマティスが70代後半の頃(1947年)に描かれた作品ですが、画面の中には鮮やかな色彩によって溢れ出さんばかりの活力が表現され、年齢による完成の老いなどは一切感じられません。制作してから時間がかなり経過しているので、もしかしたら色彩は現在よりも鮮明だったと考えられます。「簡略化した線」で描かれた女性やテーブル、特徴的な「色彩」、そして他の作品でも頻繁に描かれている「窓」といったように、マティスを知る上で欠かせない要素が数多く用いられている作品の一つです。40年代は2度にわたる大手術に見舞われた時でありましたが、作品の中には円熟したマティスの技量を見ることができます。

https://www.hiroshima-museum.jp/collection/eu/matisse.html

【2】ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」1904-06 アーティゾン美術館

本作は現在アーティゾン美術館で開催中の「見えてくる光景 コレクションの現在地」(〜3/31)に展示されているセザンヌの作品です。アーティゾン美術館に訪れた際は、絶対に見ておきたい作品の一つです。

モダンアートの父として知られているセザンヌ(1839-1906)は、若い頃から取り憑かれたように地元プロヴァンスのサント=ヴィクトワール山を描いており、その作品数は生涯で60点以上にも上ります。この「サント=ヴィクトワール山」の作品にこそモダンアートの父と言われる所以があります。そこに見られる自然の中の幾何学、形の単純化は印象派の時代を超えて、キュビスムにも多大な影響を与えました。彼は自身の風景作品を「自然に即した構成物」と言い、本作に見られるのは自然の模倣ではなく二次元の中でのみ表現し得る平面の深みなのです。まさにセザンヌの長年の技量が集約された作品といえるでしょう。このモダンアートのはじまりと評される「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」は日本でアーティズン美術館でのみ見ることができます。

https://www.artizon.museum/collection/category/detail/160

【3】エドガー・ドガ「浴槽の女」1891 ひろしま美術館

先ほど「赤い室内の緑衣の女」の紹介でも登場したひろしま美術館では、踊り子の作品で広く知られているドガ(1834-1917)の作品にも触れることができます。

印象派の一人に数えられるドガは、1874年から開かれた印象派展に7回も参加しています。印象派の光を捉えるような作品ではなくむしろ古典的な表現で印象派の画家とは違った絵画表現を求めました。しかし印象派の作家たちと同様に、彼の作品が認められるには時間が必要でした。それは、彼が描いていた作品の対象が、当時の社会では受け入れ難い題材だったためです。そもそも当時は、裸婦像を描くこと自体が宗教的にタブーとされていました。しかしパトロンとなる貴族や有産階級の人々は裸婦画を欲しがったため、ニンフや女神など空想上のキャラクターとして描かせることで教会との折り合いをつけていたのです。ところがドガの描く裸婦は生活感に溢れ、明らかに現実に存在する女性の姿を連想させられます。しかも作品の多くは、本作のようにドガがモデルの日常を盗み見ているかのような構図になっているのです。さらにドガは、特定の題材を何度も描くことから、残酷な人間性の観察者とも知られていました。当時そのようなドガの作品は低俗なものとして批判の対象となりましたが、時代とともに作品は徐々に認められることとなります。彼がそれらの作品で意図したのは自分のことに夢中になっている人間の動作を示すことです。だからこそ彼の多くの作品には目の前の一瞬を切り取ったようなみずみずしい瞬間が宿っています。

https://www.hiroshima-museum.jp/collection/eu/degas.html

【4】ジャン=フランソワ・ミレー 「夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い」 1857-60 山梨県立美術館

こちらのミレー(1814-1875)の作品は中期の名作であり、「種をまく人」などの傑作とともに、山梨県立美術館に収蔵されています。

ミレーは“農民画家”として広く知られ、自ら土にまみれになりながらそこで働く人間像を抒情豊かに描きました。「夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い」はバビルソン村で生活を営む羊飼いの姿を描いたものであり、鋭い洞察によって深い郷愁を感じさせます。本作はミレーの代表作「晩鐘」と同時期に描かれており、ミレーの技量が成熟した頃の作品としても高い評価を得ています。この作品は晩鐘と同様に羊の群れと地平の広がりに対して垂直の人物を配置して、立体感を強調しています。特にこの頃から、ミレーの作品は美しさや穏やかさが洗練されていったと言われています。ミレーの作品はエッチングを含め日本に数多くの作品がありますが、ミレーの名作中の名作、そしてミレーの複数の作品を複数点見ることができるのは、山梨県立美術館だけです。

https://www.art-museum.pref.yamanashi.jp/permanent/collection/

【5】ジョルジュ・スーラ 「グランカンの干潮」1885年 ポーラ美術館

新印象は画家として有名なスーラ(1859-1891)の作品は、ポーラ美術館で見ることができます。点描はスーラが厳密な科学理論を駆使して考案した技法であり、彼の代名詞といっても過言ではないでしょう。そんな彼の作品も、山梨県立美術館で見ることができます。

スーラは31歳という若さで亡くなってしまったため、生涯の制作期間はたった12年間、作品は約60点しか残っていないものの、彼の制作は実験に満ち溢れていました。「グランカンの干潮」は、1885年にスーラがフランス北西部に滞在したときに制作され、初めて点描技法を試みた作品として知られています。本作は、かの有名な「グランドジャット島の日曜日の午後」が描かれる前年に描かれていますが、その作品よりも点描の密度が薄く感じられます。おそらく実験の過渡期と見ることができますが、いずれにせよ点描の始まりをここに見ることができる。そんな貴重な一枚です。

https://www.polamuseum.or.jp/collection/016-0038/

今回は日本で見れる西洋近代絵画5選を紹介させていただきました。この作品以外にも日本には西洋絵画の名作がいくつも所蔵されている国の一つです。海外まで行くのが難しい時期だからこそ日本にある名作に触れてみてはいかがでしょうか。