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2020.12.21

【今日の一枚】ヴィゴ・ヨハンスン ”きよしこの夜”

クリスマス間近のこの時期、アートシーンにもクリスマスを題材とした作品が数多くフィーチャーされます。本作もその一つ、その名も「きよしこの夜」。文字どおり、クリスマスに集う家族たちの団欒を描きあげた油彩画です。夜の帳が降りた室内を照らすツリーの灯りと、照らされた子どもたちの顔から伝わる幸福感は、まさにクリスマスの理想像と言えるでしょう。作者のヴィゴ・ヨハンスンは日本でこそ知名度が高くありませんが、彼の生まれたデンマークおよび北欧では、19世紀を代表する画家の一人に数えられます。本作の素晴らしさを語る上で言葉は不要かもしれませんが、ヨハンスンの足跡を含めてご紹介いたします。

ヴィゴ・ヨハンスン

【作者について】
ヴィゴ・ヨハンスン(1851-1934)は、デンマーク出身。コペンハーゲンの商人の家に生まれ、芸術家を目指すものの、デンマーク王立美術院を中退。それとほぼ同時期に知り合ったのが、新進気鋭の芸術家グループ「スケーイン派」でした。デンマークの小さな漁村スケーインでコミュニティを築いた「スケーイン派」は、自然主義表現を取り入れた作風によって北欧の美術史に一石を投じた集団です。彼らに触発されたヨハンスンもまた、光あふれる村の風景や人々の日常を描くことで、自身のスタイルを確立していきました。さらに妻マーサとの結婚を機に、彼のモチーフは妻や子供たちが中心になっていきます。その後、クロード・モネの作品から影響を受け、ヨハンスンの作品はより光に満ち溢れたものへと変化していきました。

「芸術家たちの集い」ヴィゴ・ヨハンスン作(1903)
「聖ヨハネの斬首」カラヴァッジョ 作(1608)

【作品について】
「きよしこの夜」は1891年製作。当時すでにクロード・モネの光あふれる作風に触発されていたヨハンスンですが、一方で「芸術家たちの集い」のように、暗い室内と明るい灯りとを組み合わせた作品も手掛けています。
本作もその内の1作であり、暗い室内だからこそ光がより印象的に映るよう演出されています。これはバロック期の天才画家カラヴァッジョ(1561-1610)が得意とした手法ですが、カラヴァッジョがドラマチックな演出として用いたのに対し、ヨハンスンは温かみや幸せの演出として用いています。家で過ごす時間の長い北欧では、「ヒュゲ(hygge:くつろいだ、心地よい雰囲気)」を大切にする文化があり、ヨハンスンもまたこの精神を本作に投影したのでしょう。