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2025.04.16

【今日の一枚】ポール・セザンヌ『画家の息子の肖像』【『ルノワール×セザンヌ モダンを拓いた2人の巨匠』より】

三菱一号美術館で529()より『ルノワール×セザンヌ モダンを拓いた2人の巨匠』が開催されます。日本人の大好きな巨匠ルノワールとセザンヌの名画が50点も集まる本展ですが、その注目作品の一つが『画家の息子の肖像』です。

しかしセザンヌと言えばリンゴの静物画やサン・ヴィクトワール山の風景画が有名で、本作のような人物画が展覧会の顔となっていることに違和感を覚える方も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、この『画家の息子の肖像』の紹介を通じて、本作がセザンヌのキャリアにおける意義をご紹介していきたいと思います。

ポール・セザンヌ(1839-1906)

はじめに−–ポール・セザンヌと『画家の息子の肖像』

ポール・セザンヌが描いた『画家の息子の肖像』(Portrait du fils de l’artiste)は、18811882年頃に制作された油彩画で、現在はパリのオランジュリー美術館に所蔵されています。
この作品は、彼の息子ポール・セザンヌ・ジュニア(1872年生まれ)をモデルにしたもので、セザンヌの肖像画の中でも特に注目される一枚です。​

制作の経緯

セザンヌは息子ポールを頻繁にモデルとして描いており、この作品もその一環として制作されました。​当時、セザンヌは肖像画を通じて人物の内面や存在感を表現することに関心を持っており、息子の成長過程を記録する目的もあったと考えられます。​

セザンヌは制作に多大な時間を要したため、モデルを引き受けてくれるのが家族やごく一部の親しい人物しかいなかったと言われます。夫人のオルタンスの次いで彼の作品に登場するポールは、画家にとって数少ない専属モデルの一人だったわけです。

晩年のポール・セザンヌJr.。肖像画の面影が窺える。

細部に目を向ける

構図とフォルム
この肖像画は、曲線の組み合わせが特徴的です。一見すると背もたれは立体感が無い上、ポールとの距離感が明らかに不自然に見えます。しかし少年の肩や首、顔や髪など、画面上の他の曲線たちと調和し、全体の構成を成しています。​
このような明確な輪郭線と簡略化された形態は、ポール・ゴーギャンの作品を思わせる要素もあります。 ​
ちなみにセザンヌとゴーギャンは1880年代初頭には一緒に絵を描くほどの仲だったことが明らかになっており、ゴーギャンの絵から何らかの着想を得ていた可能性は少なからずあったと考えられます。
また少年は画面左に寄り、胸から下、右肩が大胆にカットされていますが、これは日本の浮世絵から着想を得たものです。印象派の画家たちの間ではこのような大胆な構図の切り取りが流行しており、セザンヌも例外ではありませんでした。

色彩と背景
背景には青緑色が用いられ、少年の衣服や椅子の色と対比を成しています。​この色彩のコントラストが、画面に深みと奥行きを与えています。​
一方、ポールの頬にさした赤みがひときわ目を引き、構図を伴って少年を前へと押し出しているように錯覚されます。
また椅子をよく見ると、臙脂色の深い赤が潜んでいることがわかるでしょう。

後にセザンヌは赤・黄・青の法則に気づき、遠近感を使わずに空間を構築していきます。
この作品からは、空間構築の初期段階の試行錯誤が伺うことができるという意味で、非常に貴重と言えるでしょう。

わらひもを巻いた壺、砂糖壺、りんご(1890-1893)オランジェリー美術館

後の制作への意義

『画家の息子の肖像』は、セザンヌが伝統的な遠近法や写実主義から離れ、形態の簡略化や色彩の調和を重視する独自のスタイルを確立する過程において重要な位置を占めています。​人物の内面を表現するために、構図や色彩、形態を再構築する手法は、後のキュビスムやモダンアートに大きな影響を与えました。​

晩年のセザンヌ

最後に

いかがだったでしょうか?

一見するとセザンヌっぽくない『画家の息子の肖像』ですが、内包する様々な画家の情報、想像できる巨匠としての未来への道筋など、非常に見どころの多い作品であることがご理解いただけるのではないでしょうか。
ぜひ『ルノワール×セザンヌ モダンを拓いた2人の巨匠』で、本物の絵画をご覧いただければと思います。
本作以外にも多数のセザンヌ作品や、印象派時代を共有した天才ピエール=オーギュスト・ルノワールの美しい少女たちも勢揃いします。
この展覧会は世界巡回の企画展ですが、日本で開催されるのは唯一、529()より三菱一号美術館で開催される一度きりとなっているので、少し無理をしてでも足を運んでほしいと思います。
東京駅より徒歩でアクセス可能ですから、長距離移動の最中に途中下車で見に行ってもいいのではないでしょうか。

 

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ルノワール×セザンヌ モダンを拓いた2人の巨匠