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2023.02.01

【今日の一枚】エゴン・シーレ『ほおずきのある自画像』

エゴン・シーレ『ほおずきのある自画像』(1912年 レオポルド美術館)

右肩を下げるようにねじれた姿勢と、横目に見下ろす大きな瞳。一見、挑発的にも見えるその横顔は、時に何かを疑っているようにも、また怯えているようにも見えます。作者の名はエゴン・シーレ。ウィーンでもっとも有名な夭折の画家であり、またもっともスキャンダラスな画家です。

 破滅的な天才画家、エゴン・シーレ

エゴン・シーレ(1916)
ウィーンの表現主義者エゴン・シーレ(Egon Schiele18901918)は、自分自身と性的な妄想という、2つの緊急の関心を持っていました。このような限られた関心事の中から、彼はデッサンとグラフィック・デザインにおける卓越した才能によって、ナルシスティックな憧れ、エロティックな欲望、ボヘミアンの反感、実存の不安などが今も燃え上がるような芸術作品を創り出しました。

そんなシーレのライフワークが、セルフポートレイト(自画像)でした。人生の折々、揺れ動く心境を、彼は生涯にわたってキャンバスに記録し続けています。中でも本作『ほおずきのある自画像』は、その代表作と言えるでしょう。彫りの深い顔立ちと大きな瞳はいかにもナルシスティックな印象ですが、顔中を汚すように赤・青・緑の絵の具が散らされています。

描かれた1912年前後のシーレは、波瀾万丈の時を過ごしていました。近所トラブルによる引越し、少女誘拐の疑いによる家宅捜索、さらに捜索中に猥雑な題材の作品が見つかって逮捕、裁判、そして禁固刑。自業自得ではあるものの、すっかり打ちひしがれてしまいます。汚され傷ついたような顔は、そんな当時の心境だったのかもしれません。

『ヴァリーの肖像』(1912年、レオポルド美術館)

なお本作には、対になる作品『ヴァリーの肖像』(レオポルド美術館)が存在します。これは当時の恋人ヴァリー・ノイツェルを描いたポートレイトであり、同じくほおずきがあしらわれています。しかしヴァリーとの仲は1914年に破綻、1915年にはシーレが中産階級出身のエーディト・ハルムスと結婚し、以降2人が交わることはありませんでした。

 30年ぶりの来日

東京都美術館(上野)『エゴン・シーレ展』ポスター

『ほおずきのある自画像』は『エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ天才』にて、上野の東京都美術館で公開されました(現在は終了)。日本でシーレの大規模回顧展が開催されるのは実に30年ぶりで、その他にもグスタフ・クリムトらウィーン世紀末派の画家の作品が多数展示されました。

エゴン・シーレ『悲しみの女』(1912年、レオポルド美術館)

ちなみに『ヴァリーの肖像』は一緒に来ていません。代わりに、というわけではないのでしょうが、同じくヴァリーがモデルとなっている『悲しみの女』(レオポルド美術館)が来日しています。

とても“笑顔で一緒に日本旅行”なんて気分にはなれなかったのかもしれません。

展覧会情報

レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ天才
Egon Schiele from the Collection of Leopold Museum -Young Genius in Vienna 1900
会場:東京都美術館(東京・上野公園)
東京都台東区上野公園8-36
会期:2023年1月26日(木)~4月9日(日)
開室時間:9:30~17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)
アクセス:JR上野駅公園口から徒歩7分、東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅から徒歩10分、京成電鉄京成上野駅から徒歩10分
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、朝日新聞社、フジテレビジョン
詳しくは公式サイト(https://www.egonschiele2023.jp
公式Twitter:@schiele2023jp

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