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2022.03.25

文学の世界を彩るイタリア文芸作家5選

今回は文学の世界を彩るイタリア文芸作家5選と題しまして、イタリアが誇る文芸作家を5名ご紹介させていただきます。
イタリアはアートが盛んな国としても知られていますが、実はそれと同じくらい豊かな文芸文化が育まれた場所でもあります。それを示すようにイタリアは古代から現代にかけて数多くの著名な文芸作家を輩出してきました。本記事ではそのイタリア文学の歴史の中でも、特に後世に影響を与えたと考えられる文芸作家を紹介させていただきます。

それでは解説を初めて参ります。

ダンテ・アリギエーリ 1265-1321

イタリア最大の詩人

「ダンテ・アリギエーリの肖像」 ボッティチェリ作 1495(出典:Wikipedia)

【代表作(邦題)】
「神曲」

最初にご紹介するのはダンテ・アリギエーリです。イタリア文学に馴染みのない方であっても、ダンテという名前を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。ダンテは13世紀から14世紀にかけてイタリアで活躍した詩人、政治家であり、哲学者でした。彼はイタリアにおいて最も知られた作家であり、彼の執筆した「神曲」は代表作として今なおイタリアの人々に愛されている名作です。

神曲は1304年頃から1321年頃にかけてダンテがテーマ別に執筆した詩をまとめたものです。本作は地獄篇、煉獄篇、天国篇の三篇から成り、ある日突然死後の世界を体感できるようになった私(ダンテ)が地獄(死後、生前に悪行を成した人々が罰を受ける世界)、煉獄(小罪を犯した死者が罪を清めるための天国でも地獄でもない世界)、天国(信者の霊魂が永久の祝福を受ける場所)を巡るといった物語です。現代でいうところのSFのような世界観ですが、ダンテは本作を通して道徳的原則を明らかにする(=キリスト教の教義を伝える)ために書きました。本作は当時、多くの人々に読まれたようですが、その背景には本作がトスカーナ地方の方言で書かれた事によるところが大きいとされています。当時新約聖書をはじめ、書物はラテン語で書かれるのが一般的だったため、それらを読むことができたのは聖職者や一部の知識層に限られていました。しかし、ダンテは本作を多くのイタリアの市民が読める形で発表したのです。これによりキリスト教の世界観がイタリアに広く正しく伝わったとされています。

さらに本書をきっかけにトスカーナ語も国内に広まったため、イタリア語がトスカーナ語をベースとする言語として確立されるという役割も果たしました。そのためダンテは、イタリア語の父とも呼ばれています。また、キリスト教の世界観をラテン語のみならず、イタリア語でも表現できる事を示したことからルネサンスの先駆者とも呼ばれています。そしてダンテの「神曲」はイタリア文学を多方面で発展させたことから彼はイタリア文学の祖と呼ばれ、イタリア史上最も偉大な文芸作家と評されています。

アレッサンドロ・マンゾーニ 1785-1873

19世紀イタリア最大の小説家、詩人

アレッサンドロ・マンゾーニ(出典:Wikipedia)

【代表作(邦題)】
「いいなづけ 17世紀ミラーノものがたり」(邦題)

次に紹介するのが19世紀イタリアの最大の小説家、詩人として活躍したアレッサンドロ・マンゾーニです。彼は日本でこそそれほど知名度は高くないですが、イタリアではダンテと並び評されるほどの国民的小説家として知られている人物です。1960年代から70年代にかけて彼の姿が紙幣(リラ)にも採用されたこともあり、そのことから彼がいかにイタリアの人たちにとって馴染みのある人物であるかがわかります。代表作は1827年に刊行された「いいなづけ 17世紀ミラーノものがたり」(邦題)。本作は現在の高校生の教科書にも採用されている作品であり、イタリア国民であればほとんどの人が読むとされる作品です。

本作はコーモ湖畔に住む若者レンツォは、いいなづけルチーアと結婚式を挙げようとしますが、村の司祭が突然、式の立ち会いを拒みます。臆病な司祭は、美しいルチーアに横恋慕した領主に、式を挙げれば命はないとおどされたのです。二人は密かに村を脱出します。この二人の恋人たちの苦難に満ちた逃避行の行く末を描いた作品です。

彼がイタリア最大の小説家であり、ダンテと並ぶイタリアの二大文芸作家と言われる所以は「いいなづけ 17世紀のミラーノものがたり」の内容に加え、時代背景が大きく関わっているとされています。マンゾーニが生きた時代はイタリアが北と南に分裂し、周辺のイギリスやフランスに比べ文明としても技術としても大幅な遅れをとっていた時代でした。マンゾーニはそのような時代にイタリアにおける現代小説の基礎を築き、さらには北と南の言語の統一を後援した偉業からダンテと並ぶ作家としてイタリアで愛されています。

 

カルロ・コッローディ 1826-1890

19世紀イタリアを代表する児童文学作家

カルロ・コッローディ(出典:Wikipedia)

【代表作(邦題)】
「ピノッキオの冒険」

3番目に紹介させていただくのは19世紀、イタリアを代表する児童文学作家、カルロ・コッローディです。彼の代表作は「ピノッキオの大冒険」という児童文学小説で、ディズニー映画「ピノキオ」の原作になったことで広く知られています。今となってはピノキオの生みの親として世界的に知られるコッローディですが、彼が評価されるようになったのは彼の死後、20世紀になってからのことでした。コッローディが児童文学を書くようになったのは50歳を過ぎてからだったとされており、児童文学作家としてのキャリアはそれほど長くはありません。しかし後世に与えた影響は大きく、イタリアの文学作品を語る上で欠かせない人物と言えるでしょう。

ところでディズニーが描いた「ピノキオ」とコッローディが書いた「ピノッキオの大冒険」では話が大きく異なることはご存知でしょうか??
ディズニーの「ピノキオ」は木の人形のピノキオがさまざまな誘惑に打ち勝ち人間になるという物語が描かれていますが、コッローディの書いた「ピノッキオの大冒険」は児童文学とは思えないほど残酷で、19世紀当時でも発表後は批判が相次ぎ、発表当初の結末を書き直し、再出版したほどです。ディズニーが「ピノキオ」で夢と魔法の世界描きましたが、コッローディは「ピノッキオの大冒険」の中で裏切りと堕落の世界を書いたと言えます。ディズニーの「ピノキオ」と比較するとその物語の違いに驚いてしまいますが、「ピノッキオの大冒険」は決してホラーではなく、児童は素直な心を持っているからこそ悪に囚われやすいという事を寓話として伝えようと試みたのでしょう。

それを示すように彼が最も関心を抱いていたのがイタリアの児童教育であり、自国語の共通の基盤を培うことだったと言われています。生前はそれほど大きな成功を収めることなかったコッローディですが、死後その文学的価値が見直されるようになり、やがて世界中で読まれるイタリアの児童文学作品となりました。もしご興味を持たれたら出版当初と修正後の「ピノッキオの大冒険」、ディズニーの「ピノキオ」をそれぞれ見ていただければと思います。

 

ガブリエーレ・ダンヌンツィオ 1863-1938

20世紀最大の詩人

ガブリエーレ・ダヌンツィオ(出典:Wikipedia)

【代表作(邦題)】
「早春」、「快楽の子」、「死の勝利」、「巌の処女」、「イノセント」

続いて紹介するのはガブリエーレ・ダンヌンツィオです。彼は20世紀のイタリアを代表する詩人であるばかりでなく、小説家、劇作家など多方面で活躍しました。また生前から海を越え、フランスやアメリカでも国際的な人気を得た作家として知られています。ダンヌンツィオは日本でも非常に知られた存在であり、上田敏、夏目漱石、森鴎外、芥川龍之介、三島由紀夫など、日本近代文学を築いた錚々たる作家たちにも大きな影響を与えました。特に三島由紀夫に関しては作品だけでなく、晩年の行動にまでダンヌンツィオの影響が見られたと言われています。

そんな日本の文豪たちにも大きな影響を与えたダンヌンツィオですが、彼の経歴は華々しくまさしく天才そのもの。代表作の詩集「早春」は彼が16歳の時に執筆した処女作で、本作はイタリア人初のノーベル文学賞を受賞したジョズエ・カルドゥッチに絶賛されたところからキャリアをスタートさせています。次々に発表した小説でも、同時代のヨーロッパの最新の思潮や風俗を作品に取り入れ、大衆的な評価を獲得しました。彼の代表作の小説「イノセント」は「ヴェニスに死す」の監督を務めたことでも有名なルキノ・ヴィスコンティによって映画化もされています。

一方、ダンヌンツィオは有名な愛国作家でありファシスト運動の先駆者として知られています。ファシストとは簡単に言えば独裁の一種とされる政治体制を指す言葉。20世紀前半のイタリアでは第一次世界大戦が勃発し、イタリアは戦勝国となったものの恩恵を受けることができず、国が経済的に困窮した時代でした。その状況下で力を得たムッソリーニ率いるファシスト党は国民の支持を得るため大衆に広く知られた愛国詩人、ダヌンツィオをファシストの礼賛者に祭りあげたとされています。
いずれにせよ20世紀のイタリア文学を振り返る際にダヌンツィオは非常に大きな影響力を持ち、現在のイタリア文学にも多大な影響を与え続けている人物に違いありません。

 

ルイジ・ピランデルロ 1867-1936

20世紀を代表する小説家、劇作家

ルイジ・ピランデルロ(出典:Wikipedia)

【代表作(邦題)】
小説「生きていたパスカル」、戯曲「ヘンリー4世」、戯曲「作者をさがす六人の登場人物」

最後に紹介するのは20世紀を代表する劇作家、小説家、詩人のルイジ・ピランデルロです。彼は1934年にノーベル文学賞受賞した人物であり、さらには20世紀演劇の革命的な改革をもたらした人物でした。彼の最大の功績は文学というよりむしろ演劇にあり、劇作家として認知されている方が大半なのではないかと思います。しかしここではノーベル文学賞を受賞した功績に加え演劇界の後世に与えた影響の大きさから、5選の中に入れさせていただきました。

彼の最も有名な小説として知られているのは「生きていたパスカル」(邦題)です。シチリアの貧しい家庭に育った主人公パスカルが、ある日故郷をとび出し、ある賭博場で思いもかけない大金を手に入れます。郷里で偶然発見された水死体を自分と誤認された彼は、全く新しい人生を始めようと決意しますが、それはやがて自分自身の存在とは何かを見つめる旅になる、という物語です。本作は半ばピランデルロの自伝的小説であるとされています。本作の連載を開始した1904年は彼にとって苦境の時期であり、実家の没落や生活苦、妻の発狂死といった問題が度重なる中で生み出された作品です。本作によってピランデルロは成功を収め、以降文学界だけでなく演劇界でも活躍するようになりました。特に演劇界における功績は計り知れず、今日に至るまで革新的な影響を及ぼしています。現代では「生きていたパスカル」はピランデルロの全ての作品に通底するテーマが前面に押し出された初期の作品と言われており、イタリア文学が誇る名作として今なお世界中の人たちに愛されています。

 

まとめ

今回は文学の世界を彩るイタリア文芸作家5選と題しまして

ダンテ・アリギエーリ

アレッサンドロ・マンツオーニ

カルロ・コッローディ

ガブリエール・ダンヌンツィオ

ルイジ・ピランデルロ

の5名をご紹介させていただきました。

今回はあくまでクリエイト・アイエムエス編集部の主観から選ばせていただいたものであり、当然ですがご紹介できなかったイタリアの文豪たちも数多くいます。
本記事をきっかけにイタリア文学の世界に関心を持っていただいた方はご自身で調べてみる事をお勧めさせていただきます。

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