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2022.04.15

【発足110年】青騎士(ブラウエ・ライター)とは

現在、ミュンヘンのアートシーンが注目を集めているといいます。中でも注目を集めているのが20世紀初頭に結成された前衛芸術家グループ「青騎士」(ブラウエ・ライター)。というのも2022年は青騎士が発足して110年という節目年にあたり、その拠点となったミュンヘンに今、関心の目が注がれているといいます。本記事では発足110年の節目に合わせて改めて青騎士とはどのようなグループだったのかを解説をしていきたいと思います。

青騎士 解説

フランツ・マルク「青い馬の塔」1913 出典:WikiArt.org

青騎士(ブラウエ・ライター)は20世紀初頭、ドイツのミュンヘンで発足した前衛芸術家グループです。活動期間は短かったものの20世紀初頭のドイツ美術に大きな影響を与えました。青騎士は大きく分けて「ドイツ表現主義」に分類されるグループとして知られています。ドイツ表現主義とは20世紀初頭の最も主要なモダニズム運動の一つです。

この美術運動はフォービスム(野獣派)と似た性格を持っており、強烈な色彩感覚や主情的傾向を軸に作品制作をするという特徴を持っています。しかし、それ以上にドイツ表現主義は形式上の美しさやバランスを犠牲にしても、精神的、内面的なものを力強く表現したいというゲルマン的な伝統に根ざすものでありました。そのドイツ表現主義の担い手となったグループの一つが青騎士(ブラウエ・ライター)です。

青騎士は1912年から1914年にかけてミュンヘンを拠点として活動を行いました。
19世紀末から20世紀初頭のミュンヘンはユーゲントシュティール(ドイツ版アールヌーヴォー)の中心地となっており、新たな芸術を向け入れる環境は整いつつありましたが依然としてアカデミーが強い力を持っていた時代でした。この美術アカデミーに対して一種の刷新運動として生まれたのが青騎士です。しかし、青騎士には明確な理念、主張を持った一つの流派というよりも、自由な芸術創造を個々の芸術家が持ち、展覧会活動を行う集団という性格が強いグループでした。そのため、作品の表現法は作家によって大きく異なりますが、間違いなく現代的芸術観の礎石となりました。

ワシリー・カンディンスキー「無題(最初の抽象画)」1910 出典:WikiArt.org

その青騎士の中心となったのがロシアの芸術家ワシリー・カンディンスキーです。
カンディンスキーは美術史上最も革新的な人物の一人に数えられる芸術家で、抽象絵画の創始者と呼ばれています。彼が絵画の中に起こした革新とは西洋美術史上初めて具象物を描かないこと、さらには「(音や感情などの)目に見えないものを絵画で描けると示したこと」でした。
カンディンスキーは当初、ユーゲントシュティール風の作品を制作していましたが、パリを訪れた際にフォービスムに触れ、色彩のもつ力に魅せられたといいます。それからカンディンスキーはどうすれば感情や音楽を絵画のなかに表現することができるのかを模索し始めました。やがてそれは主題や具体的な対象がなくても色彩だけで見た人を十分感動させることができる抽象絵画のスタイルを切り拓くこととなっていったのです。
青騎士結成の数年前にあたる1910-1911年ごろには完全に抽象的な作品が生まれ、この時にはすでに彼は抽象絵画の創始者とみなされるようになったと言われています。この青騎士での活動を経てバウハウスの教授となり、抽象絵画の理論を体系化させ、近代以前の芸術を刷新するための貢献をしました。

フランツ・マルク「動物の運命」1913 出典:WikiArt .org

またカンディンスキーと同様青騎士の中心人物となったのがフランツ・マルクです。彼は自身の自然体験に根ざしたロマンティックで理想主義的な作品を描きました。これはカンディンスキーにも多く共通するものでありますが、マルクの表現は非常にドイツ的であると言われています。
フランツ・マルクは自然に生きる野生の動物(主に馬)の中に、文明を生きる人間にはない高貴な精神性と力強い生命力を作品の中に描きました。マルクの作品はキュビスムの形態感覚を軸として、オルフィスム的な色彩感覚と北方的なロマン主義を加味した点に彼の特色があります。これは青騎士の活動に参加するようになり、より顕著に表れるようになりました。マルクの作品はエネルギーに溢れ、それまでには見られなかった抽象性から新しい様式を展開することが期待されていましたが、第一次世界大戦中に戦場に立ち、惜しくも36歳で帰らぬ人となりました。若くして亡くなったため、画家としての活動期間はそれほど長くはありませんが間違いなく抽象絵画の先駆者として後世に名を残したドイツを代表する芸術家です。

アウグスト・マッケ「明るい家」1914年 出典:WikiArt .org

このほかにも青騎士の旗上げに関与し、ドイツ表現主義の中心人物となったアウグスト・マッケ、ドイツ表現主義の女流画家でありカンディンスキーのパートナーだったガブリエル・ミュンター、幻想的な版画やデッサンで知られるアルフレート・クービンなど錚々(そうそう)たるアーティストたちが所属していたのが青騎士です。
厳密な理論や主張を持っていなかったからこそ、そこに名を連ねた芸術家たちは多様性に溢れ、それぞれが自由な活動を貫くことができたのでしょう。

改めて青騎士は2022年で発足110年を迎えました。本記事をきっかけとして青騎士の芸術家たちさらにはドイツの美術を知る一助になれば幸いです。

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