2023.12.31
【東京都美術館で公開】アメリカ印象派って何だ?
19世紀に西洋美術史を一変させた印象派は、一般には1874年から始まった全8回の印象派展の終了と共にその歴史を終えたとされます。しかし主にパリで活動した彼らの影響は、少しずつ諸外国へと広まっていき、各地で印象派の遺伝子を受け継いだ画家たちが表現を展開していたのです。中でもアメリカでは多くの画家たちが集まって独自の運動を起こし、一大ムーブメントとして国内の美術史に一時代を築き上げました。
これまでアメリカ国外では彼らの活動が注目される機会はほとんどありませんでしたが、2023年12月より開催中の展覧会『印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵』は、日本では初めてアメリカ印象派の作品の一挙公開が実現しています。
ここでは、そんな知られざるアメリカ印象派についてご紹介いたします。
アメリカ印象派のはじまり
アメリカで印象派が始まったのは、1880年代に画家フレデリック・チャイルド・ハッサムらがアメリカで開催された印象派の作品展を訪れた時のこととされています。それまでアメリカでは自国の芸術家を育てる環境が未成熟で、若者はヨーロッパに渡って芸術を学ぶのが普通でした。しかしセオドア・ロビンソンやメアリー・カサットのように渡欧した若者の中から徐々に成功を収める芸術家が輩出されるようになると、彼らは自らの経験と最新の知識を本土に持ち帰り、後進の育成に関わるようになります。その結果、19世紀末にはアメリカ国内の芸術教育の水準は上昇し、有望な若手芸術家が発掘されていきました。
彼らは地方の小さな村でアート・コロニーと呼ばれる芸術家村を形成して集団で制作活動に取り組み、独自の画風を確立していきます。コネチカット州のコスコブとオールドライム、ペンシルベニア州のニューホープ、インディアナ州のブラウン郡などが有名ですが、とくにコスコブのアート・コロニーは多くの有力な芸術家が参加していました。中でも上記のチャイルド・ハッサムや、ジョン・ヘンリー・トワックトマンらは既存の保守勢力から独立して行動するグループ『テン・アメリカン・ペインターズ』を結成(1898年)します。彼らの活動は、アメリカ美術界は大きな改革の波をもたらすと共に、国内の流行を大きく印象派へと傾倒させていったのです。
アメリカ印象派の特徴
アメリカ印象派とフランス印象派の大きな違いとなっているのが、モチーフの違いです。元々アメリカの既存のアートシーンはグランドキャニオンのような雄大な自然や開拓者とその家庭が好んで描かれており、後進の画家たちもそれを踏襲していました。これはアメリカという国の歴史が浅く、国民の中にアメリカ人らしさを欲する傾向があったことと深い関係があると言えるでしょう。後にその“アメリカ人らしさ”は発展した街並みや工業地帯など人工的な風景の中に追い求められていくこととなります。
また技術的な面では、より大胆に切り込まれた構図や筆触分割の多様性、より原色の色彩を取り入れた点などが主な特徴です。その結果、自然の光に忠実にあろうとしたフランス印象派よりも鮮やかで非現実的な色彩美の作品が少なくありません。これは時代が印象派後の表現主義や新印象派の画風へと移行していった流れとよく似ています。またアメリカ国内での絵画の需要が新興の上流階級――工業ビジネスなどの都会的なビジネスマンに傾いていたこと、つまり彼らが絵を飾る家とインテリアとの相性などの影響もあったと言えるでしょう。
アメリカ印象派の終焉
19世紀後半から20世紀初頭にかけて一気に隆盛したアメリカ印象派でしたが、その流行は長くは続きませんでした。1913年にニューヨークで開催されたアーモリー・ショーでヨーロッパの近代美術が紹介されると、アメリカ国内のアートシーンも急激に現代アートへと移行します。結果、アメリカ印象派は1920年代を境に過去のものとみなされるようになり、中心となる芸術家たちもアート・コロニーからニューヨークを中心とした活動に変化していきました。その勢いは次第に世界を巻き込み、世界のアートの中心もパリから奪還していくのです。
アメリカ印象派の功績
このように短期間で終焉を迎えたものの、アメリカ印象派の活動は非常に大きな意味をもたらしました。彼らは初めて国内で誕生したアートの明確な流派であり、アメリカ美術のアイデンティティを確立した重要な試みを言えるでしょう。『テン・アメリカン・ペインターズ』の作品は各地で設立された美術館のコレクションの土台となっており、それは冒頭に登場したウスター美術館も例外ではありません。
最後に
『印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵』は、日本で初めてアメリカ印象派の作品が多数公開される展覧会です。アメリカにしかないモネの重要なコレクションも見どころですが、ぜひこの機会にアメリカ印象派の作品に触れていただければ幸いです。
『印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵』展 展覧会基本情報
展覧会名:印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵 会期:2024年1月27日(土)~4月7日(日) 会場:東京都美術館 企画展示室 休室日:月曜日、2月13日(火) ※ただし、2月12日(月・休)、3月11日(月)、3月25日(月)は開室 開室時間:9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで) 観覧料: 一般 2,200円(2,000円) / 大学生・専門学校生 1,300円(1,100円) / 65歳以上 1,500円(1,300円) ・( )内は前売料金。 ・高校生以下無料。 ・身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料。 ・高校生、大学生・専門学校生、65歳以上の方、各種お手帳をお持ちの方は、いずれも証明できるものをご提示ください。 ※土日・祝日及び、4月2日(火)以降は日時指定予約制(当日の空きがあれば入場可) ※詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。 本展チケットは転売を禁止しております。不正に転売されたチケットに関するトラブルについては一切責任を負いませんので、ご注意ください。 展覧会公式サイトhttps://worcester2024.jp お問い合わせ先TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)