
2025.01.17
【今日の一枚】「ボニャール」で話題!ピエール・ボナールの白い猫
【今日の一枚】ピエール・ボナールの白い猫
最近、SNSで話題の「ボニャール」をご存知ですか? これは、フランスの画家ピエール・ボナールの『白い猫』をもとに、同じポーズをした愛猫の写真を投稿するトレンドです。猫好きの間で広がり、次々と投稿される愛らしい「ボニャール」がSNSで日々話題となっています。
本記事では、この人気のきっかけとなった『白い猫』の魅力に迫り、ボナールが描いた他の猫の作品もあわせてご紹介します。なぜボナールの猫がこれほどまでに人々を惹きつけるのか――美術が好きな方も猫が好きな方もぜひご覧ください。
日常の中の特別な瞬間

「ボニャール」の元ネタとなった『白い猫』は、1894年に制作された作品で、現在はフランスのパリにあるオルセー美術館に所蔵されています。日本ではそれほど注目されてこなかったボナールですが、この絵の影響か近年になって広く知られるところとなりました。
画面中央の猫は背中を弓なりに反らし、全身を思いきり伸ばしています。そのユーモラスなポーズや表情からは、日常の何気ない一場面に垣間見える猫の持つ可愛らしさと、ボナールの猫に対する深い愛情が伝わってきます。
写実的というよりはデフォルメされた極端な伸びた形が、猫に独特の魅力を与え、それが一層今にも動き出しそうな生命感を感じさせる作品となっています。
この作品の魅力はそのユーモラスな猫のフォルムだけではありません。淡い緑や茶色のトーンで描かれた背景の中、白く輝く猫の毛並みがいっそう際立って見えるのです。その柔らかなタッチと色彩の絶妙な使い方で、ボナールは猫を単なる動物ではなく、どこか詩的な存在として描き出しました。
ナビ派とボナールの特徴

ピエール・ボナールは、19世紀末から20世紀初頭に活躍したフランスの画家で、当時新進の芸術家グループ「ナビ派」として活躍したことで知られます。
ナビ派は、目に見えるものを正確に描く伝統的な手法から離れ、内面的な感覚や感情を絵画で表現することを目指しました。グループ名はヘブライ語で「預言者」を意味し、その名の通り、彼らは新しい芸術の方向性を模索したのです。
ボナールはナビ派の中でも、特に身近な日常の風景や小さな出来事をテーマに選びました。彼は、光と影の繊細なコントラストと柔らかな色彩を巧みに組み合わせ、詩的な余韻を残す作品を数多く生み出しました。『白い猫』もその代表作のひとつであり、猫という身近で親しみやすい存在を通じて、日常に潜む美しさと温かさを見事に表現しています。
この時代、多くの画家が動物を神話的な象徴や幻想的な存在として描くことが多かった中で、ボナールの作品は異彩を放っています。アンリ・ルソーやポール・ゴーギャンのように劇的なシーンや象徴的なモチーフを追求するのではなく、ボナールは身近な猫を愛情を込めて観察し、日常生活の一部として描きました。こうしたアプローチにより、彼の作品は親しみやすさと特別な温かさを持っています。
ボナールの描いた猫たち



ボナールは、生涯にわたり数多くの猫を描きました。その作品に登場する猫たちは、一匹として同じ表情や仕草をしておらず、それぞれ異なる性格や雰囲気をまとっています。ある作品では猫が日だまりの中で無防備にくつろぎ、また別の作品では窓辺で外の景色をじっと見つめる姿が描かれています。これらの猫たちは、単なる動物という枠を超え、ボナールにとって特別な絵画のモチーフだったというのは間違いありません。
ボナールが猫を描く際に注目していたのは、毛並みの質感や、日差しの中で光を受けた時の柔らかな輝き、影の中に隠れる微妙な存在感などです。彼は、猫の動きや姿勢だけでなく、光と影が生み出す空気感を通じて、その場の雰囲気全体を描こうとしました。こうした細やかな描写は、ナビ派として培った「感覚を大切にする」アプローチの延長線上にあります。
さらに、ボナールの猫がしばしば人間のいる空間の一部として描かれる点も特徴的です。部屋の片隅や窓辺など、人間の生活の一部でありながら、猫はその独立した存在感を失いません。これは、猫がボナールにとって愛情深くも敬意を抱く対象であったことを示しています。彼にとって猫は、自由で気まぐれながらも、日常の美しさを象徴する存在だったのでしょう。
こうしてボナールが描いた猫たちは、劇的な場面や特別な舞台装置を必要とせず、日常の延長線上に存在しながらも、その静かで穏やかな姿で強い印象を残します。彼の作品を通じて、私たちは「ありふれた日常の中にも特別な美しさがある」ことを気づかせてくれるのです。